青い星を君に捧げる【弐】
それでも、と言葉をつづける。真剣な表情の目の前の彼の首に腕を回して力強く抱きついた。湊は私に触れることもせず、されるがまま私に温もりを分けてくれる。


「こうしてまた会えてうれしいっ」


さらに彼に寄ると頭上からため息が混じりで、しょうがねぇなと頭をガシガシかく音がした。


「ここじゃゆっくり話せねぇからさっさと移動すんぞ。早く立てや」


そうして私は湊について行って、二人車に乗り込んだ。助手席に乗るように促され、運転席には湊が。


暗い道路を車のライトだけが照らす。運転席の窓から入ってくる風が心地いい。車に乗る前に私も湊も武装は解いていて、身軽だ。


たださっき転がり回ったせいで土やらで埃っぽかった。


「波瑠が本郷家の娘ということは…お前が朧月の姫ってわけだ」


「…そういうことになるね」


「なら話は早い。“リリィ”という女の子を知ってるか」


今が夜でよかったと心底思った。暗闇じゃないと私のこの動揺は一目瞭然だったから。赤信号でゆっくりとスピードを落として止まる。そして催促するように彼は横目で私を見た。


「知ってるよ。彼女は確かに本郷家で生きている」


なぜ、どうして湊がその名前を知っているのか。ずっと気になってた。それに加えて死んだも同然の存在であるのに、生きているのを知っている口ぶり。


「………そうか。それなら」


「だけど彼女の心はあの家に囚われている。逃げられない。あの子の心が表に出るのに手助けできる力を持つのは多分……残りの三天、天沢家と七扇組ぐらいだろうね」


青信号なのに発進しない私たちに後続の車がクランクションを鳴らす。それでも動く気配がない湊がハンドルに置いていた手に触れる。


「湊、大丈夫?」


「あ、ああ」

一点を見つめていた彼は一度瞬きをして、アクセルを踏む。



30分ほど車に揺られ、ついたのは街とは遠く離れた田舎の景色が広がる場所だった。しかし車が止まって降りるとそこには大きな施設が建っている。


遅れて降りてきた湊の隣を歩く。施設の玄関前の大きな石造りの階段に誰かが項垂れて座っていた。その人物は湊の姿を捉えると立ち上がり、手を上げる。


「遅かったからキミに限って失敗したのかと思ったよ」


「ちょっとな知り合いに会ったんだ。こいつのこと泊めてやってくれないか」


中国語で繰り広げられる会話に耳を傾ける。随分と流暢な湊の中国語。意外と彼は学がある。前だってお祭りの日に浴衣を着付けていたし。
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