青い星を君に捧げる【弐】
蘇芳理事長に渡されたタキシードに着替えた俺たちはタクシーに乗り会場となる屋敷に向かっていた。


「まあ君たちは社会見学って感じで会場見てまわりな。別世界が広がっていて面白いよ。ただし参加者に失礼はないようにね」

慣れないタキシードで首周りがきついのか彼方はぴっちりと締め上げられたネクタイを緩めようとするが理事長に止められる。


ふと車窓から数時間前に太陽が消えた暗がりを見ると1人の女が3人の男たちの足元に倒れている様子が目に入った。


「止めてくれ!!」


俺の大声に驚いてか反射的に運転手は急ブレーキを踏み、タクシーは止まる。隣の優が勢いに耐えきれずに彼方にぶつかった。俺はドアを開け放つと少しばかり通り過ぎてしまった女の元へと急ぐ。


「だから、あんたみたいな小娘ちゃんがあの仮面舞踏会に行けるわけだろ?いくら頭を下げられたって連れてはいけない」


「お願いします……あなたたちには迷惑をかけないから、だから!!」


座り込み頭を下げる女に真ん中にいた男が足を上げる。女に迫る足を俺はさらに蹴り飛ばした。


「散れ……」


俺の後ろからバタバタと足音がする。数的不利がわかったのか、男たちは鋭い睨みを俺に向けながら去っていく。


「……立てるか?」


「どうしよう……わたし舞踏会に行けない」


彼女はその綺麗なドレスをぎゅっと握り締める。大きくため息を吐いて俺は彼女の正面にしゃがむ。


「俺たちもマスカレードに行く。1人増えたって構わない、だろ?」


え、と顔を上げやっと俺を視界に入れてくれた彼女は声をこぼした。後を追ってきた理事長は俺の問いに頷く。


「まあ、いいけど……」


「……よかったな」


彼女の両肩を持って立たせ地面に着いてしまったドレスの裾をほろってやる。幸い目立った汚れは付いていなかった。


「慎が女の子助けるなんて!?あっ、僕は彼方で、こっちは優。それで君を助けたのは慎。君はなんていうの?」


彼方があまりにも早口で紹介するものだから彼女は戸惑いを隠せていない。


「えと…わたしは凛風(リンファ)と申します。助けていただいた上に舞踏会にも連れて行ってくれるなんて、なんとお礼を言ったらいいのか」


「いいんだよ別に。招待状余ってんなら尚更な」


リンファの茶色の長髪に真っ赤なドレスはよく映えていた。その姿はどこかここにはいない想い人を彷彿とさせるが、リンファのハーフアップを固定している赤いリボンがそれを止める。
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