青い星を君に捧げる【弐】
《side.凛風》
わたしとランが育った郷は貧乏な田舎だった。それでもわたしはそれに満足していたし、同世代の子たちと駆け回って楽しかった。
中でも仲が良かったのは 浩然という男の子だ。紺色の短い髪に空のような瞳を持つ子。
迷路のように複雑でぐちゃぐちゃとした路地裏。そこには錆びついた梯子があって登ると家々の屋根を伝って歩けたり、貯水タンクの方へ行けたりする。
大人の目を盗んでランはわたしをそこへ連れてきてくれた。梯子を登り、橋代わりに置かれたぐらつく鉄格子を渡る。
「ねえランは大きくなったら何になりたい?」
最後の一歩をジャンプしてトタン屋根に移る。木で補強されている部分に足をそっと乗せるとギィと音を立てた。
「俺は偉い人になる」
「えらい人?」
後ろにいたはずのランはわたしを追い越し、先にタンクの上に飛び移り次の錆びた階段の踊り場へ飛んだ。
「偉くなって金を貯めて、そしてこの村を豊かにしたい」
足元が広くなったことをいいことにランは私に腕を広げてみせ、くるりと一回転する。機嫌よく階段を上る彼を見て、置いていかれないように私もタンクへ飛び移り階段に足をかけた。
「雨漏りする心配も、今日の飯に困ることもない。俺の理想の村にするんだ」
二段上にいるランはわたしの手をとって同じ段、そして水を通すための太い配管に誘導した。足を滑らせないように木の壁を伝ってゆっくりと横歩きする。
隣を見るとランは歩き慣れているのか余裕そうな足取りだった。配管を渡し終えると木でできた通路に藁が積んであり、それを避けて歩いていると足が滑る。
バランスを崩したところでランがわたしの片腕を掴んで助けてくれた。先に行かせるとダメだと思ったのかランがわたしの前を歩き出す。
「……そんな素敵な村になったら、何にも持たないわたしは追い出されちゃうね」
わたしが足を滑らせてしまった藁がパラパラと落ちていくのが目に入った。ランが少し振り返った気がしたけれど止まることはなく、わたしとの距離は遠くなる。
「リンファは何になるんだ」
「うーんわたしはねえ。花屋、とかどうかな?」
「あってるんじゃないか?」
ランに追いついたわたしは彼の隣に腰を下ろした。そこは村を一望できる場所だった。大人に見つかったら、危ないから降りてこいって怒られそうだけど…きっと見つからない、かな。
「お花屋さん、になったら、ランのところにお花、届けに行ってもいい?」
どきんどきんと胸が大きく音を立てた。隣に座ったランを見つめる。ちりん、とランの髪飾りについている金色の鈴が鳴った。彼は夕日に負けないくらいの笑顔を浮かべる。
「ああ、
____待ってる」
わたしとランが育った郷は貧乏な田舎だった。それでもわたしはそれに満足していたし、同世代の子たちと駆け回って楽しかった。
中でも仲が良かったのは 浩然という男の子だ。紺色の短い髪に空のような瞳を持つ子。
迷路のように複雑でぐちゃぐちゃとした路地裏。そこには錆びついた梯子があって登ると家々の屋根を伝って歩けたり、貯水タンクの方へ行けたりする。
大人の目を盗んでランはわたしをそこへ連れてきてくれた。梯子を登り、橋代わりに置かれたぐらつく鉄格子を渡る。
「ねえランは大きくなったら何になりたい?」
最後の一歩をジャンプしてトタン屋根に移る。木で補強されている部分に足をそっと乗せるとギィと音を立てた。
「俺は偉い人になる」
「えらい人?」
後ろにいたはずのランはわたしを追い越し、先にタンクの上に飛び移り次の錆びた階段の踊り場へ飛んだ。
「偉くなって金を貯めて、そしてこの村を豊かにしたい」
足元が広くなったことをいいことにランは私に腕を広げてみせ、くるりと一回転する。機嫌よく階段を上る彼を見て、置いていかれないように私もタンクへ飛び移り階段に足をかけた。
「雨漏りする心配も、今日の飯に困ることもない。俺の理想の村にするんだ」
二段上にいるランはわたしの手をとって同じ段、そして水を通すための太い配管に誘導した。足を滑らせないように木の壁を伝ってゆっくりと横歩きする。
隣を見るとランは歩き慣れているのか余裕そうな足取りだった。配管を渡し終えると木でできた通路に藁が積んであり、それを避けて歩いていると足が滑る。
バランスを崩したところでランがわたしの片腕を掴んで助けてくれた。先に行かせるとダメだと思ったのかランがわたしの前を歩き出す。
「……そんな素敵な村になったら、何にも持たないわたしは追い出されちゃうね」
わたしが足を滑らせてしまった藁がパラパラと落ちていくのが目に入った。ランが少し振り返った気がしたけれど止まることはなく、わたしとの距離は遠くなる。
「リンファは何になるんだ」
「うーんわたしはねえ。花屋、とかどうかな?」
「あってるんじゃないか?」
ランに追いついたわたしは彼の隣に腰を下ろした。そこは村を一望できる場所だった。大人に見つかったら、危ないから降りてこいって怒られそうだけど…きっと見つからない、かな。
「お花屋さん、になったら、ランのところにお花、届けに行ってもいい?」
どきんどきんと胸が大きく音を立てた。隣に座ったランを見つめる。ちりん、とランの髪飾りについている金色の鈴が鳴った。彼は夕日に負けないくらいの笑顔を浮かべる。
「ああ、
____待ってる」