青い星を君に捧げる【弐】
《side.本郷波瑠》

湊と別れ、運転手の人はそこそこ栄えた街で降ろしてくれた。襲撃のことを聞けば詳しくは把握できなかったが、どうやら天沢家と手を組むのを良しとしない別のマフィアが攻めてきたらしい。


「無事でよかった、匡」


迎えに来たその赤を見て私は心底安心した。爆発に巻き込まれてなくてよかったと。車で本郷の持つホテルに戻る。


「まあ他は全員重症または死んだけどな」


「私は薄情だから。知らない人がどうなったってなんとも思わないの」


匡に続いて本郷側から提供された部屋に入った。そこには鮮やかな青色の中華風マーメイドドレスが用意されている。


シャワーで汚れを落とし、メイクをして青を纏う。左側のスリットから足が覗く。


「ああそうだ」


「ん?」


髪飾りやピアス、ブレスレット、ヒールなど装飾品を箱から丁寧に取り出していた匡が私のつぶやきに手を止めた。


「いつものウィッグじゃなくて違うのある?ちょっと私だとバレたくない人がいてね」


「…ないな。今から準備する時間もないぞ」


「仕方ない。素でいくか」


ばさりと金色が青いドレスに広がる。ウィッグがないならこのまま行くしかない。


「いざマスカレードへ」

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進んでは止まりを繰り返す車列からやっと抜け出し私は1人、舞踏会会場に来た。大扉の前で立ち止まり深呼吸をする。


……いつも通り振る舞えばいい。大丈夫、まずは湊を見つける。


ふわりと自分を包む柑橘系の香、その奥には甘い記憶。よく「プルメリアの花の香り?」と聞かれるけれど違うの。これは私を守ってくれる"シルクジャスミン"。


左右に分かれ広がる大階段の真ん中を胸を張って降りる。階段の途中で止まっていた黒髪の男性を追い抜く。


フロアに降り立ち近くにいたウェイターが配っているシャンパンを受け取った。ザワザワと賑わうフロアは立ち話か、はたまた何か悪巧みの相談か。


「ミス?見ない顔ですね…初めてですか?」


先程受け取ったシャンパンを1口飲む。私に声をかけてきたのは金髪の細身の男性。この人は知ってる。たとえ仮面をつけていたとしても。


中国の大企業を最近継いだ若社長。そんな男までもここには来ているのか。


「ええ、そうなのです。それに知り合いもいなくって」


「あなたほどの美女…ダンスパートになっても壁の花にはならないでしょうね」


男は遠くで呼ばれた。それでは、と丁寧にお辞儀をして離れていく。名前も身分も明かすことは無いこの会は楽でいい。気を使わなくて済む。
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