青い星を君に捧げる【弐】
そんなに恋い慕うように言わないで。私は黒い未来に進むあなたを止めたいのに、止められなくなってしまう。


「俺が"桃"ならば……あなたは"百合"なのか」


胸が嫌な音を立てた。背中が一気に冷える。泡沫の逢瀬は、それはそれは簡単に終わりを告げる。


これ以上ここには居られない。
彼に私がリリィだってバレている。


そう確信した私は彼から1歩離れ、そして踊る男女の隙を縫うように大階段へ駆け出す。背中や肩が当たっても足を止めなかった。


「待ってくれ!!!」


後ろから遅れて湊が追いかけてくる。それでも体格のいい彼は私のようには前に進めない。


ゴーン、ゴーン、ゴーン

この屋敷の近くにある教会のベルが夜中の0時を告げる。


やっと大階段に着いた私は駆け上がる。湊も遅れて着いてきた。


「あっ……!?」


慣れないヒールで階段に躓き、左のヒールが無惨にも階段から転げ落ちていく。

慌てて1段降りたところで階段の最初の方に迫ってきていた湊の姿が目についた。降りたい気持ちを押しとどめて右足のヒールを手に持ち再び走り出す。


屋敷から出る。湊はそれ以上追って来なかった。上がった息を匡が正面に準備していた車に乗って落ち着かせた。


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「……どこのシンデレラだよ」


湊は喉から手が出るほど望んだ女性が置いていったハイヒールを取る。


あのブロンド髪、雰囲気を一目見てから彼女がリリィであると彼は確信していた。


逃げられてしまったものの本郷家に囚われているはずの彼女にこの国で再会出来たのは奇跡のようなものだ。


「お前こんなところにいたのか……湊」


そして湊が会いたくはない存在とも再会することになる。


そこにいたのは知らない女、慎と彼方、優だった。
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