青い星を君に捧げる【弐】
《side.黒鉄慎》

ダンスの時間に入った時、俺はあの青いドレスの女性を誘おうとしてた。だけど一足先に彼女に話しかけたのは輝く白い髪を持った男。


「……みな、と?」


その2人はホールの端で踊り出した。踊っていない観客はみな、あの2人に釘付けだったと思う。


美しいを実体化させたようであった。湊の力強いリードに女性はしなやかに辺りに華が咲くようについていく。


そして突然止まった2人は言葉を交わした後、広いダンスホールで追いかけっこを始めた。


「あっ、リンファちゃん。お目当ての人いなかったの?」


「いない、みたい…」


湊に話しかけようと歩き出した俺の後ろで合流したリンファが彼方と優に話す。


追いかけていた青いドレスの女性が落としていったヒールを拾った湊はぽつりと言葉を零す。


「お前こんなところにいたのか……湊」


「その名前をここで言うのは禁忌だぞ」


湊はにっこりと口角を上げる。手に持ってたハイヒールはあの青いドレスを身にまとった女性が落として言ったものだ。


久しぶりに見た湊は1ヶ月強前より少し痩せていて、疲れが見えた。きっとあの仮面の下には隈があるだろう。


『ごめんな、慎。じゃあな』


俺とぶつかって、そして青龍から去った湊はこんな所で何をしているのか。問い詰めてやりたかったけど……。


「ずっとしんぱ「俺もずっと言ってこなかったけど」


心配してた、そう続けようとしてたのに湊は被せるように遮った。持っていたヒールを付き人に預けて俺たちの正面に来る。


「大っ嫌いだった。生ぬるい空気に何年も浸かって情が湧いてたようだが、離れてみて思ったよ」


「なにいってんだ」


「青龍を抜けた日、俺は心底気分が良かったぜ。ここ数年で1番最高な日だった」


後ろで彼方が悲しげな声を出す。リンファは不穏な空気を察してオロオロしているのが目に浮かんだ。


「お前と初めて会った時の帰り道に見た夕日を何ヶ月か前に偶然同じ場所で見ただろ?」


「……ああ」


確かにそんなことがあった。それはあの中学生の頃よりも綺麗で、立場が変化したとしても俺たちの仲は変わらないんだなと感じてた。


「お前は綺麗だと言った。でも俺は、なんとも思わなかった」


湊は親指で自身のことを指す。


「俺は俺の望みのために」


そして人差し指で俺を指す。


「お前はお前の望みのために」


スタートは同じだった。同じ場所で並んでいたはずなのにいつからこんなにも離れてしまったのか。


「お互いは必要なかった。ただ、それだけの話しだ」
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