青い星を君に捧げる【弐】
《side.本郷波瑠》

湊から逃げて匡に手配させ待機してあった車に乗り込んだ。赤信号で車が止まっていると匡が持ってきてくれたカバンの中でスマホが震えた。


「もしもし」


『あ、ハル〜!!お前近くにいるんだろ?夜はアイツらと同じホテル泊まれよ』


電話をかけてきたのは翔陽高校理事長の聡太郎だった。そのテンションの高さと微妙に呂律が回っていないところから見るに酔っているのだろう。じゃ、待ってっかんなー!!と私の言葉も聞かずに電話は一方的に切られてしまった。


「ちょ、私は行かないって!!!」


通話時間が表示された画面を見て、こんなことなら応答しなければ良かったと思った。一部始終を見ていたであろう隣に座る匡は、可哀想なものを見る目で私を見る。そんな目で見るな。


「どうする?行くか、修学旅行」


「……修学旅行、か。最初で最後になるからね」


聡太郎から事前に送られていた資料に記載されていたホテルの住所を運転手に伝える。目的地を変更した車は勢いよくUターンした。



ホテルに着くと従業員に裏口から通され、部屋に入った。動きづらかったドレスを脱いでウィッグをつける。鏡を見ればいつもの“波瑠”がそこにいた。


「俺は戻る。なんかあったら連絡してくれ」


「わかった。ありがとうね、匡」


帰る匡をフロントまで見送って部屋に戻ろうとした時、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると聡太郎と慎たちが。


「あれ、波瑠!!」


「彼方、慎、優。どこかに行ってたの?」


「……そのことなんだが、ちょっとこいつの面倒見てやってくれないか」


慎が肩を支えていたのは華奢な女の子だった。その子の腕を取り支える。訳アリの子、かな。目に希望を持ち合わせていない。白虎にいた時から幾度も見てきた。


項垂れていた彼女の肩をがっしり掴んで上を向かせる。整った綺麗な顔が現れた。


「私は本郷波瑠って言うの。あなたは?」


「……凛風、リンファと申します」


「そうリンファ。ちょうどね女の子と話したい気分だったの。良かったら仲良くしましょ」


彼女の瞳には僅かにハイライトが戻った。聡太郎や慎たちに目配せをすれば頷いてくれる。話したいことは山ほどある、そんな表情だ。


またあとで、と慎のゆっくりとした口の動きを読んでからリンファを連れてホテルのエレベーターへと向かった。
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