青い星を君に捧げる【弐】
部屋に入るとリンファにドレス用のハンガーを渡す。


「部屋着これしかないけど、身長同じくらいだし大丈夫だよね」


スーツケースからスウェットを取り出してドレスを掛けていた彼女に手渡す。それからさっき触れた時に体が冷えていたようだったからポットに水を注いで電源を入れた。


備え付けの紅茶パックをカップに垂らす。リンファをキッチンから覗けば灰色のスウェットを着て項垂れていた。特徴的な赤茶色の髪もどこか寂しそうに垂れている。


その姿が居た堪れなくて。いつかの自分を見ているようで。


沸騰した熱いお湯を二つのティーカップに注ぐ。リンファの前にあるテーブルに置いた。白い湯気が立っている。


「リンファ……昔話をしようか」


「……?」


ソファ横においてあったカゴからブランケットを取って彼女の方にそっと掛ける。置いてあったティーカップを持たせて、間接照明だけを点けると部屋の電気を消した。


「これはね、鳥籠の中の鳥のように自由を奪われていた深窓の令嬢と、彼女のことを助けた普通の男の子の話」


リンファの隣に再び座り直して私はゆっくりと語り出した。


あれは御伽のようにハッピーエンドなんかじゃない。だけど二人の行き着いた物語の終末は彼らにとって唯一無二だ。巻き戻すことも書き換えることもできやしない。


全ては終わってしまったことだから。でもね……。


「リンファはまだ間に合うの。あなたの結末はまだ決まってなんかない」



ゆっくりと時間をかけて私は包み隠さず話をした。全てを話し終わった後リンファは声を噛み殺して泣いていた。


「ヒッゥ……グス、あなた……な、まえ……グスッは?」



「今の私の名前は本郷波瑠。だけど真実を知ったリンファにはこの名前も教えよう。本当の名前はリリィ。ずっと憎かったこの名を好きになれたのは“彼”のおかげ」


後者の名前は秘密にしてね、と付け加える。そういうと彼女は私の首に腕を回して抱きつくと、爆発したように声を大にして泣き出した。


私の話を聞いたからかもだけど……これは今まで我慢してきた分ね。リンファには腹を割って話せるような女性はいなかったのだろう。


ちょっと聞き出したランとの関係。そして私と自分を照らし合わせてしまった。


大丈夫、口には出さないけれど抱きついているリンファの背中を優しく撫でた。まるで妹のようだ。……あの子と本当の“波瑠”と仲が良ければこんな感じなのかな。


止まることを知らないリンファの泣き声にそっと瞼を閉じた。
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