青い星を君に捧げる【弐】
泣き疲れてソファで寝てしまったリンファにブランケットをかける。すやすやと安心したように眠っている彼女だが明日は目が腫れているに違いない。


「さてと……」


すっかり冷めてしまった紅茶の最後の一口を飲み干すと私は部屋を後にした。エレベーターで二つ下の階に向かう。ドア横の呼び鈴を押すと出迎えたのは慎だった。


「さっきぶり、かな?」


「……まあ入れ」


招き入れられた部屋には既に彼方と優がいた。だいぶ待ちくたびれていた様子で彼方はあくびを噛み殺す。彼らなりにリンファを気にかけていたようで、彼女は大丈夫だと伝えた。


「波瑠も中国に来てたんだね」

彼方の問いに私は頷いた。


「そうだね、家族の用事があったから。それにしても彼方たちは面倒事にでも巻き込まれた?」


「……理事長に連れられて行った仮面舞踏会に、湊がいたんだ」


神妙な面持ちで言った慎の言葉に私も動揺を隠せなかった。まさかあの場に慎たちがいたなんて。それに加えて湊とも接触していた。


「俺たちは明日連れて行かれた湊を連れ戻す。あくまで湊を解放するだけだ。ここにいる3人で少数先鋭」


「その作戦、私も参加するよ。足は引っ張らない約束する」


慎がまさかと目を見開いた。彼方も優も言葉を失っている。やめろと言う慎に私はポケットに隠し持っていたスタンガンをビリ付かせた。


「あくまで戦いはしないんでしょ?もし会敵しても気絶させる術は持ってるよ」


「はぁ……わかった」


私が口で言って従うはずがないことを知っている湊は自らの頭を雑にかきながら言う。わがままでごめん、と謝ればため息が返ってくるだけだった。


「……出発は明日の午後からだ。各自準備をしておけ」


「ランの居場所は掴めているの?」


「僕らがさっきサクッと調べておいたから大丈夫だよ」


彼方が優と肩を組んで親指を立てて見せる。頑張ってくれた二人に声をかけようとした時タイミング良くスマホが鳴った。私のものだ。


「ごめん、電話だ。じゃあ、また明日」


素早く挨拶を済ませると部屋を出てホテルの廊下に出た。このフロアは確か私たちの高校で貸し切っていたはずだ。そう思って電話に出る。


「もしもし、どうしたの?」


発信主は別れたばかりの匡だった。彼も寝床にたどり着けたようでベッドのスプリングが軋む音が小さく聞こえる。


「桃……風間湊がハオ・ランとかいう男に捕まったらしいな」


面倒なことになりやがって、なんて普段は愚痴らない彼が言葉を漏らした。
< 71 / 154 >

この作品をシェア

pagetop