青い星を君に捧げる【弐】
毒を注射されたにも関わらず湊の顔色はいつもより悪そうなくらいだ。呼吸は安定しているし、苦しげな様子も見られない。

「そいつ毒に耐性があるみたいだから、外見に変化がなくても中身は蝕まれているさ」


湊が耐毒性を持っている?


私の脳裏に疑問が浮かんだが、状況が状況なだけにすぐにそれは通り過ぎた。


男は緩やかにまるで扇でも扱っているように私に銃口を向ける。ニヒルな笑みを描いた表情。


何もかもがくだらなくて……可哀想な人


私も習うように潜めていた銃を男に向けた。一触即発。背にいる湊を守るためだ、と自身に言い聞かせる。


「俺を殺したら桃を助けられる。けれどお前は一生その手に残った殺した感触を忘れられずに自責の念に駆られるだろうな」


「そんなもの……とうの昔に置いてきた」


あの夏の日に。


そこまで思い出して湊を横目で見た時に、ずきりと頭が痛んだ。柔らかな白い髪に青の瞳。


なにか記憶の中にぽっかりと穴が空いているような、大切なことを忘れている感覚に陥る。


____俺はさ、リリィのヒーローになれてるかな


記憶の中の少年がそう尋ねた。霞がかかっていて表情は読み取れない。だけど声色は不安そうであった。


____……が私の手を引いてくれ……なってからずっと…………ローだよ
< 87 / 154 >

この作品をシェア

pagetop