青い星を君に捧げる【弐】
脳が思い出すことを拒否しているのに、体は秘めた記憶を呼び起こそうとする。


核心は遠く、しかしその足音は確実に近づいてくる。


小学生のとき、私は本郷家本邸と離れて暮らしていた時期があった。そしてそこで過ごしていた記憶は私の中にはないのだ。


前にあの田舎町の海の見える丘で湊と会った時から引っかかっていた違和感。


なぜ、彼が私の"本当の名前"を知っているのか。本郷リリィ……その名はもうあの夏の日に自らの手で殺したのに。


____湊が私の手を引いてくれるようになってからずっと湊は私のヒーローだよ


「っ!!」


走馬灯のように深く沈んでいた記憶たちが駆け抜ける。記憶が弾けて、交差して、そして全ては結合した。


霞んでいた視界が元に戻り再び湊を捉える。


ああ、彼は何も変わっちゃいないじゃないか。


あの頃息をしていた小さな世界で湊は間違いなく私のヒーローだった。


「……ありがとう」


私に自由を教えてくれて、生きる意味を授けてくれて。ありがとう。


私の瞳はその時既に湊から銃を向けあっている男へと移っていた。


いつか、湊にはちゃんと話せる時が来るといいな。


だって私が死んでいないと信じてくれていたから。


標準を合わせるために目を細める。



私たちもう一度やり直せると思うんだ。
そうしたら今度はちゃんと「ごめんね」って。




……言える気がするよ。





____パァン
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