青い星を君に捧げる【弐】
《side.風間湊》
「もも……桃。私の愛おしい子よ。あなたの本当の名を呼べないのは心が痛む」


「母様。俺なんかよりも御身を大切にしてください」


母親は生まれつき体が弱く、俺を出産後ますますその身は弱化していた。医者によればその命はもって数ヶ月ということだ。


母様のために綺麗な空気を求めて田舎町に引っ越してきて、そして俺はリリィと出会い……そして別れた。


「母様も俺を置いていくのですか」


母様は痩せ細った腕を伸ばし、日焼けを知らぬ白く糸のような指で俺の頬を撫でる。この人が生きていると感じられるのはそのぬくもりただ1つ。


「……そうね。私はそう長くないだろう。そしてあなたを1人にしてしまうな」


俺にとって生まれた時からずっとそばに居た唯一の家族。母様の手に俺も手を重ねた。


「桃、あなたはこの先多くの困難に見舞われるだろう。だが、大切なものだけは見失ってはいけない」


その時の母様の言葉はこれまで送られたどんな言葉よりも重く、力強いものだった。


「人生というものは大切なものが増えていくことだ。多くのものは守れなくていい、ほんの少しだけ守れる力を持ちなさい」
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