室長はなにをする人ぞ
不思議な感覚にとらわれる。
年齢から単純に “おじさん” というカテゴリーに括っていた相手が、“男性” なのだと、そんな当たり前のことに気づいたのだ。

「今まで自由気まま、というか好き勝手にやっていたからなぁ」
と彼は誰ともなくつぶやいている。

とりあえず、わたしの最初の仕事は、部屋の整理整頓になりそうだ。

「スキャナーで読みこんで、電子化するのではダメなんですか?」
散らばっている冊子をとりあえず拾い集めながら、五嶋さんに訊いてみる。

「紙媒体の良さも、捨てがたいものがある」
オフィスチェアをくるりとこちらに向けて、彼が言う。

「ページに触れるから、身体感覚と連動して記憶することができるんだ」
膝に置かれた手がページをめくる仕草をしている。

身体感覚と連動…わたしには理解が及ばない話だった。

そして彼の言葉が大袈裟でないことを、わたしはすぐに知ることになった。
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