室長はなにをする人ぞ
ああそうだ、同世代の男性にありがちな、あの性急さと強引さ。
ぐいぐい距離をつめてきたり、下の名前で呼ぼうとしたり、連絡先を聞き出そうとスマホを突きつけてきたり…とは無縁の、五嶋さんの落ち着いた佇まい。

深い見識と知性が噛み合った仕事ぶりは、はたで見ていても惚れ惚れしてしまう。

「でもそんな、何拍子も揃っている男性が、なんで独身なんだろう?」
真紀は痛いところを突いてくる。

「そう、なんだよね…」
五嶋さんと仕事する時間を重ねるにつれ、それは気になるところだった。

「仕事が忙しすぎて、っていうのもありそうだけど、もしかして他人と一緒に暮らせないほど潔癖症、とか」

「うーん、今のところ、そういう変わった様子はないんだよね」
願望も込みで返す。

「でもさ、美緒がそんなに目をキラキラさせて誰かのこと話してるの見たのって、初めてだよ。わたしは応援するから」
真紀は両脇で小さくこぶしを握って、がんばれポーズを作ってみせた。
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