室長はなにをする人ぞ


会社にいる時間の大半を、わたしは書架が並ぶ調査室で過ごしている。
五嶋さんと二人でいる時間と空間は、不思議なほど気詰まりじゃなかった。

彼が例えたように、事件の証拠品を分析する鑑識官になったつもりで、あるいは古文書の解読に取り組む考古学者気分で、わたしは五嶋さんと営業部からのヘルプに対応する日々だった。

まだほとんど五嶋さん頼みの状態だけど、わたしの助手としての仕事もだんだん板についてきた。

馴れてくるにつれて、五嶋さんと仕事の合間に雑談くらいはするようになった。

「歩いてても建物を見ると、門扉とかドアとかポストとか、どこのメーカーのかな、って考えるようになったんです」

職業病だな、とわたしの言葉に、五嶋さんの目尻が柔らかく下がる。
「正直僕もそうだけど、建築に携わる仕事をしていると、オンとオフの切り替えが難しいな」

「そういえば、五嶋さんに聞いてみたいことがあったんです」
小さな、でもわたしにとっては思い切った一歩を踏み出す。

なんだろう、というように彼が眉を上げる。
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