室長はなにをする人ぞ
温かく確かな彼の手のひらの感触を、離したくないと思っている。

「営業の浅野課長が、お礼に美味しい豆大福を差し入れてくれるっていうから、今日はそいつで休憩といこうか」

「わあ、いいですね。総務から日本茶もらってきます」

喫茶スペースで、五嶋さんと二人、豆大福をほおばる。
それだけで密かにデート気分になってしまうのだから、わたしってつくづく恋愛の経験値が低いんだな。

やっぱり大福にはお茶が合いますね、なんて他愛もない会話を五嶋さんと楽しんでいたら。

———あれ、美緒っち?

かけられた声に、苦々しい思いでそちらに顔を上げる。
営業の神谷さんだ。年齢はわたしの一つ二つ上だろうか。
馴れ馴れしい態度が、以前から苦手だった。

「久しぶりじゃん。どうそっち、元気でやってる?」

え、まあ…と、ぎこちなく返す。

「甘いもん好きなの? やっぱ女の子だな」

甘いものが好きというか、誰と食べるかが大事なんだけどな。

「今度俺が大福おごってやるよ」

「え、そんな気を使わなくていいですから」
迷惑と言えずに、態度にも出せずに、愛想笑いで受け答えしている自分に嫌気がさす。
< 26 / 54 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop