室長はなにをする人ぞ
「いえそれが全然。名前は玲美(れいみ)さんですし、僕らからも聞いてみたんですけど、特に赤が好きとかこだわりがあるわけじゃないと。
奥様も不思議に思って、ご主人に理由を聞いたけど、教えてくれなかったそうで」

「偏屈だな、それとも不器用な人だったのか」

「とにかくそんなわけで、依頼主の泉玲美さんは、亡きご主人の『お前の色』という言葉がしこりというか、心残りで。
外壁を違う色にリフォームしたい気持ちもありつつ、決めかねているというわけなんです」

「それは困ったな。お施主さんが迷っていると、こちらも先に進めない」
五嶋さんがデスクチェアにもたれて、背をのばし視線を天井に向ける。

「色の謎が解ければ、奥様の気持ちも固まると思うんですけど、なんせ雲をつかむような話で…」

「迷いを残したままじゃ、満足いく結果にならないだろう。ともかくこちらも手は尽くそう」
五嶋さんが夏目さんに向き直る。

ほんとですか、と夏目さんの表情がパッと明るくなる。

「泉邸の竣工図や施工管理図の写しを回してくれないか」

もちろんです、ありがとうございます、と頭を下げながら、夏目さんは部屋を辞していった。
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