室長はなにをする人ぞ
「亡くなった人が言い残した言葉を調べるのは、さすがに初めてだな」

五嶋さんでさえ経験がない事例だ。わたしには、なにをどうすればいいのかさえ浮かんでこない。

ほどなくして届けられた数種類の図面をめくる彼の手つきは、いつになく慎重だった。

「窓枠…これか」と明細行の一つを指差す。
「R59-139か。丁寧に施主指定と明記してあるな、ふむふむ確かに」
図面を読み込みながら、五嶋さんがぶつぶつつぶやいている。

彼の思索の邪魔はしたくないけど、ちんぷんかんぷんなので訊くしかない。
「ええと、R59-139ってなんのことですか?」

日塗工の色番号だ、と教えてくれた。

「にっとこう?」

「正式名称は日本塗料工業会。通称、日塗工。
そこが塗料用標準色を二年ごとに発行している。建築用の塗料は、この色番号で指定されることが多いんだ。
頭のアルファベットが発行年、あとに続く数字が色相(しきそう)を意味している。
R版は1991年発行だから、泉邸が建てられた当時の最新版だったんだろうな」
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