室長はなにをする人ぞ

第四章/Only you have that magic technique



「設計図、施工管理図、竣工図と見ていっても、窓枠の色は一貫してR59-139だ。施主の泉宏一(こういち)氏は、最初からこの色だと決めていたんだな」

五嶋さんのデスクに広げた泉邸の図面をにらむ日も四日目を迎えている。
回答期限は一週間と決めていた。それ以上引き伸ばしても、工期が遅れるだけで、施主にも営業部にもメリットはないと判断したからだ。
解くことはできなくとも、なんらかの推論は出したいというのが、五嶋さんとわたしの目標だ。

「日塗工には、赤を意味する番号って他にもありますよね」
ワトソンになったつもりで、思いついたことは積極的に口にするようにしている。

「つまり、赤という色ではなく、R59-139に意味があるということか」
コツコツ、と彼が手にしたペンで図面を叩く。

「泉玲美さんに…それにしても、七十歳くらいの方で玲美さんて、ハイカラなお名前ですね」
そんなわたしの呟きも、五嶋さんは拾ってくれる。

「まあ、『玲』も『美』も古文の時代から使われている漢字ではあるけど。玲瓏(れいろう)の玲だから…」
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