室長はなにをする人ぞ

石岡さんは営業部の部長、という肩書きに合わず柔和な印象を与える外貌をしている。
その温厚な表情の奥に、鋭い観察眼を秘めた策略家とも聞いている。
彼がわたしを調査室に推薦した、ということなんだろうか。

「今回の異動についてだけど———」
と部長が切り出す。
調査室はその名の通り、営業部から寄せられるさまざまな問い合わせに対応するのが主な業務だという。

「住宅のリフォームを手がけていると、調べものは避けて通れない。
一番多いのは既存の物、たとえば手すりやら雨樋やら、同じものを探してほしい、だな。
珍問だと、お施主さんから家の中で異音がする、幽霊が出ると怖がって相談されたり。調べたら、壁の中を雨漏りが伝う音だった、なんていうのもあるあるな話だ」

少なからぬお金が動くから、施主からの疑問や質問をクリアにするのもこちらの役目だ、と部長は続ける。
「今回早川さんが異動する調査室の室長をしている五嶋は、いわばそのプロフェッショナルだ」