島津くんしっかりしてください
着いた場所は、映画館。






「……そういえば、今日って映画見に行く予定だったんですね」



「え、知んなかったの?」



「はい。とりあえずついてきてって言われて、断れなくて」



「あいつ……相変わらず口下手というか、話下手というか……言葉が足らなすぎだねぇ」






本当に、まったくです。






それから、映画のチケットを買って、劇場へ入る。






島津くんと鞠亜さんはポップコーンだとかジュースだとかを買っていたけど、私達には必要なかったから。






勿論、チケットは二人と少し離れた席を取って、抜かりはない。






次第にライトが落とされ、巨大なスクリーンが青白く光る。









今回見る映画は、いわゆる『純愛』というジャンル。








かわいいヒロインがいて、かっこいい相手役がいて。




2人は家の事情で同居をすることになる。






最初は犬猿の仲だったけど、日々の共に過ごすごとにどんどん近づく二人の距離。






だけど、彼にはある秘密があって……。






そんな内容。






今人気の清純派女優が出ているということもあって、空席がほとんどなく、感動的なシーンではすすり泣く音さえ聞こえてきた。






いい映画なんだろう。






だけど、私の心は冷めきっていて。















『俺……数年前に余命が告げられていて……もう、長くは生きられないんだ』




そう、スクリーン上の彼が涙を誘ったシーンも。






『私はあなたがいなくなるまで、君に笑顔をあげたい……死の恐怖を駆り立てられたままあなたを失いたくない!』




ヒロインが白百合のような純白の笑顔を浮かべ、決意をしたシーンも。






何一つとして、心には届かなくて。






……ただ、ぐしゃぐしゃとした疑問が募るだけだった。















「……どうかした?」



「っ、え」






気が付くと、鹿島先輩が小首をかしげてこちらを見ていて。






そうだ、映画を見た後、カフェに入ったんだ。






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