島津くんしっかりしてください

8,激情〈陽平side〉

「まこちゃん、遅いねぇ」



「うん……」






不安げな琴音ちゃんの頭をそっと撫で、時計に視線をやる。






現在の時刻は8時半。




夏とはいえ、うっすらと暗くなり始めていて、高校生の女の子が一人で出歩くにはもう遅い時間だ。






それに加えて、小雨も降っている。









大丈夫なんだろうか。






さっきから、連絡をしようかと何度も考えるけど、そのたびに冷たい瞳を思い出して、躊躇してしまう。






『それ、島津くんに関係ないよね』



関係ない……か。






一緒に過ごしているとしても、所詮俺は他人で。






真見さんのテリトリーに踏み込むことを許されていない。






それはそうだ。






たかが数週間一緒に暮らしたことが、真見さんの不安要素を取り除く要因になり得るわけがない。






だけど、少しでも真見さんの考えに触れたいと考えるのは、おかしいことなのだろうか。









……よくわからないや。






はあ……とため息をついた俺をじっと見つめる琴音ちゃん。






「……ようへ―お兄ちゃん」



「ん?」



「まこちゃん……大丈夫かな」






その瞳にはゆらゆらと雫が浮かんでいて、俺はぐっと息を呑んだ。







「……大丈夫だよ。真見さんしっかりしてるし」



「ちがうの……」



「え?」






ふるふると頭を振る琴音ちゃん。



その拍子に柔らかな髪がふわりと揺れた。






「昨日のまこちゃんね……昔のまこちゃんみたいだったの」



「……え」






思いがけない言葉に、掠れた音が漏れた。






「それ……どういう意味?」




「……全然楽しそうじゃなくて、笑ってても、死んじゃってるみたいな。死にたいって思ってるみたいな怖い顔」




「っ……!」






琴音ちゃんの言葉に目を見開いて、がたっと勢いよく立ち上がる。






それから数秒思巡して……琴音ちゃんに手を握られた。






「お願い、ようへ―お兄ちゃん……まこちゃんを助けて。ことねじゃ、まこちゃん笑顔になってくれない……」




「琴音ちゃん……」






その小さな瞳は微かに震えていて、俺は思わず握り返す。






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