島津くんしっかりしてください
急いで住所を確認し、駅へと走る。






もしも。

もしも、こうしている間に真見さんが事件に巻き込まれていたら?






考えただけでゾッとする。






急いで改札を通ろうとすると、ゆらり、横を女性が通り過ぎて。



はっとして振り返り、その腕をつかんだ。






「真見さん!」



「……」






俯いていて表情は見えないけど、この服装は真見さんだ。






手を掴んでから、気が付く。






随分長い間、雨に降られていたらしい。






服はぐっしょりと濡れて重く、体温は驚くほど低くて。






だけど雨に濡れているほかに服装に汚れはなく、目立った外傷も見当たらない。






幾分かほっとして、熱い息を吐いた。






「真見さん……今までどこにいたの?」



「……島津、くん?」






のっそりと、酷く億劫な仕草でこちらを見上げる真見さん。







長いまつげに覆われたその瞳は、つるりと無機質に光をはじいて、暗い。



それはまるで光を一切通さない深海を覗き込んでいるようで。






俺は自分の無力さにぐっと唇をはんだ。









真見さんの事を、俺はよく知らない。







知り得ることを、許されていない。








そんな俺は、真見さんに怒った変化の原因を想像することはできても、その原因を解決することなんて、到底できやしない。









本当に、申し訳ない……。






なんて、自分を責めている間に真見さんはさっさと歩いて行ってしまって。









雨が降っているにもかかわらず外へと歩き出したので、慌てて傘を頭上に差し出した。






「真見さん、濡れちゃうよ」



「……」



「真見さん!」









何を言っても、何をしても反応を返さない真見さんに、思わず語気が強まる。









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