島津くんしっかりしてください
「えっと……ありがとう。でもそんなに大したことしてないよ?」






少し眉を下げて、困ったように微笑む。






これが最適解だろうと行動に移すと、後輩くんはぱぁあっと瞳を輝かせて、両手で私の手を握って。






「いやいや! 大したことありますよ! 僕不器用なんで!」


ほらこれ!





と指差された方向には、赤い絵の具がまき散らされたベニヤ板。






「え……なにこれ、殺人現場……?」



「あっははー違いますよぉ。僕の荒々しい筆の動きに耐えられなかったのが悪いんす」



「行動を正当化している……⁉」






慌てて、その現場に置かれた色見本を確認する。






……いや、確かに全体的に赤っぽいけど、こうはならんでしょ!






べちょりと、あたりにしぶきさえ飛んでいて、凄惨な事件を予想できた。






その赤いブツは偶然の産物とは思えないほどまがまがしくて、そろりと目を逸らす。






「……私、手伝おうか?」






恐る恐る提案をすると、後輩くんは大きな瞳を数回瞬きさせた後、頬を緩めて首を縦に振った。






「お願いしたいっす! 正直僕の力では完成させることなんて不可能です! 先輩が手伝ってくれるなんて、百人力っす!」




「あ、う、うん……」






まるでヘドバンのようなその動きに、引くのを通り越して脳震盪の心配をしてしまう。






「じゃあまずは、どんなふうに塗ってたか見せてくれる?」



「了解っす!」






そういうなり後輩くんは手に持っていた筆をじょぼっとペンキの缶に突っ込み、その勢いのまま板に筆を走らせる。






す、すごい……すごい勢いだ……!






その迷いない筆の動きに目を見張って、ほぅっと息を吐いた。






……でも。






「どうっすか?」



「……お手本見た?」



「見てないっす!」



「見なさい」






随分と元気のいい返事だな。






私はキリキリと痛み出す頭に手をあてた。






これは大変なことに首を突っ込んでしまったのかもしれない……。






< 136 / 372 >

この作品をシェア

pagetop