島津くんしっかりしてください
「えーと……そうだな。うーん……。じゃあ、まず私がお手本を見せるから、見ていてくれる?」



「はいっす!」






ペンキを付けるのは筆の先の方だけ。






大きな部分を塗りたいときは大きな筆に持ち替えて……。






さっきまでとやっていることはほとんど同じ。






だけど、私がお手本になるんだと思うと、なんだか少し緊張してしまう。






「……よし。できた」






それでも何とか、はみ出すことなくお手本通りにこなすことが出来て、ほっと胸をなでおろした。






「すげ……! やっぱ先輩すごいっすね!」



「ありがとう。じゃあ、次はやってみて」



「は、はいっす!」






後輩くんは恐る恐るといった様子で筆を手に取り、ベニヤ板に色を落とす。






ぐに、と力を入れて筆を板に押し付けようとしたので、手を掴んで引き留める。






「せ、先輩っ?」



「力強すぎ。それじゃ筆が痛んじゃうよ」



「は、え、そ、そうなんすか?」



「そうだよ、筆が可哀想。私が手を動かすから感覚で覚えてね」



「は、」






返事を待たずに手を引くと、後輩くんはようやく理解したようで、手を脱力させた。






筆でゴシゴシと擦るんじゃなくて、優しく、撫でるようなタッチで……。






「っわわ、先輩、凄いっす! めちゃくちゃ綺麗にできたっす!」






完成して手を放す。






すると、ぱぁあっと瞳を輝かせ、私の手を握る後輩くん。






「私はほんの少し手伝っただけだよ。最後の方は全然力入れてなかったし、これは君の作品だよ。すごく上手だね」






そう褒めたのは、お世辞でも何でもないただの本音。






「……よし、じゃあ今の感覚忘れないようにもう一回やろうか。また手伝うから」






言って、手を伸ばすと、その手をぱしっと上から拾い上げられる。






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