島津くんしっかりしてください
「……え。島津くん?」






驚いて後ろを振り返ると、そこには島津くんがいて。






その顔に浮かんでいたのは、見慣れた笑顔なんかじゃなくて、氷の王子様そのものだった。






後輩くんは不思議そうな顔で私と島津くんを見比べている。






「あの……どうかした?」






困惑を隠し、笑顔で対応すると、島津くんはぐっと眉を寄せて。






「……真見さん。病み上がりだから、あんまり仕事させないであげて」



「は、」



「えぇ~! そうだったんすか? なんかすみません!」



「いや、君が謝ることないよ」







慌てる後輩くんを手で制し、私は島津くんに笑顔を向けた。






「島津くん。ちょっと話せる?」






頷くのを確認して教室を出、階段の踊り場まで行く。







「……なんで、あんなこと言ったの?」






島津くんに言われる筋合いないんだけど。






そう言って冷たく微笑むと、島津くんは困ったように頬を掻いて。








「だって、真見さんが体調悪くなったら困るから……」













……やめて。










「真見さんのことが心配なんだよ」











やめて。それ以上何も言わないで。











「真見さんは俺にとって大切な人だし……」



「やめて!」






唸るように叫び、両手で耳を掴んだ。






「それ以上……何も言わないで」






そうじゃないと、この想いが、どうしようもないほど膨れ上がってしまいそうになるから。









乱れた黒髪が、はらりと目にかかる。






島津くんが、綺麗だと褒めてくれた、それ。






あの時は嬉しかった。






確かに、嬉しかったはず、なおに……。






今は嫌悪の対象でしかない。






どうして島津くんはそんなに優しいの?



酷いことを言って遠ざけたのは私なのに。





大切な人なんて、どうしてこんなにも醜い私に言ってくれるの?








「優しく……しないで」



「え?」



「もう、やだ……っ自分が、自分じゃなくなるなんてっ……絶対にいや!」



「っ……真見さ……」



「……ごめん。行くね」






言いかけた言葉を遮って、走り出す。






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