島津くんしっかりしてください
走って、走って、走って。






ずるずると、崩れるようにしゃがみ込む。






心臓が、どくどくと嫌な音をたてて暴れた。






この苦しさは、走ったからなのか。






それとも……。






もう、何もわからない。



わかりたくない。



好きじゃない、好きなわけがない。









そうじゃないと、私が、『私』じゃなくなってしまう。









私は何もすることが出来なくて、ただそのまま震えていることしかできなくて。



膝を抱えて、小さく、縮こまっていた。
















「……大丈夫?」



「……」






上から聞こえた声に、ふるふると、顔を横に振る。






すると、頭の上に手のひらが乗って、優しく撫でられる。







それを払いのけて、『その人』を睨みつける。






「……っどうして、こういうことをするんですか」



「……んー、どうしてだろうね?」









柔らかな発声。






そこにはいつもの軽い響きは微塵も含まれていなくて。






その人……鹿島先輩は、少し首を傾げて笑った。






「同情なんてやめてください。そんなの、何の足しにもならないんですから」



「わかってるよ。……うん、しいて言うなら、似ているから、かな」



「……?」









はっきりとしない、ぼやけた返答に、眉を顰める。






誰に、と問おうとすると、再び頭を撫でられて。






さっきまでと違い、少し荒くて、雑な手の動き。






でも、何故かいやじゃなかった。






「ま、一番の理由は誠ちゃんがかわいいからだけどねー?」



「……悩んでいる後輩がかわいいなんて、ゆがんだ性癖ですね」






口ではつい、悪態をついてしまったけど。






先輩との会話で、いつの前にか心の中が落ち着いていて。






まるで先輩の手が心のもやもやを全部取っ払ってくれたみたいだ。






一回目に反して、がしがしと乱暴なようで……とても、優しい。






全身が冷え切っていても、その手が触れている部分は暖かく感じて。






……道しるべみたいだ。






そんなことを思いながら私はほっと息を吐いて、目を閉じた。






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