島津くんしっかりしてください
「ところで先輩って……」



「島津先輩と付き合ってるんですか?」






息の合った質問に、微かに目を見開いた。






「だって先輩めちゃくちゃ美人ですし、島津先輩と付き合ったら美男美女カップルの鏡じゃないですか!」




「そうですよぅ! それに付き合ってるんじゃないかって噂が1年の間でひそかに流れてて」




「……付き合って、ないよ」



「「え?」」



「私と島津くんは、ただのクラスメイトだよ」






そう笑って紡いだ言葉は、誰に向けた言葉だったのか。






だって……そうでしょ?






私と島津くんが付き合うなんて、それこそ天と地がひっくり返ったってありえない。






「……ごめん、私もう行くね。引き留めちゃってごめんなさい」






乾いた微笑を漏らし、返事も聞かずに踵を返して歩き始めた。






「あ……っ、さ、真見さん!」






しばらく歩いて、後ろから大きな足音が近づいてきたかと思えば、腕を掴まれる。







「……何?」






呟いた言葉は冷気を帯びていて、鋭くとがれたナイフのように妙な迫力があった。






こんな声、私に出せたのか。






と、この場にそぐわないことをぼんやりと考える。






島津くんは肩を落として数回深呼吸をすると、こちらを真っ直ぐに見据えた。






そのガラス玉のような澄んだ瞳に、私が映り込む。






そこにいたのは、感情のない無機質な蝋人形。






「あのさ、真見さん。話があるんだけど」



「私にはない」






じゃあねと目を逸らす私の腕を、島津くんが掴んで離さない。






「逃げないでよ。真見さんはいつも逃げてばっかで……俺の話、少しは聞いてよ!」



「……っ」






……その目は、嫌いだ。






島津くんの瞳に映ると、私の醜さがより一層際立ってしまうから。






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