島津くんしっかりしてください
……本当は、ずっと言って欲しかった。






私は何も悪くないよ、頑張ってるよ、って。






だけど、誰もそんなこと言ってくれるはずなくて、私は頑張り続けることしかできなくて。






今、ようやく光が見えた気がする。








……眩い、希望の光。






私も……その場所へと、行っていいのだろうか。






ママの部屋で、幸せな記憶に甘えていた私が




ずっと、現実から逃げてきた私が……






……そんなこと、許されるのだろうか。











おいで











そんな声が聞こえて、ゆっくりと目を開いた。






目の前には、島津くん、ただ一人。






その温かい瞳で見つめて。






私に、手を差し伸べる。






私はくしゃりと顔を歪めて、島津くんの背中に腕を回した。






ひっくひっくと、嗚咽に肩を震わせる私を島津くんは優しく抱き留めて、背中を撫でてくれる。






私を包み込む、柔らかな私と同じ柔軟剤の香り。






それに安心感を覚えてしまうほど、私はあの家での日々が好きだった。









……あったかい。



……10年前に止まっていた時間が、ようやく、動き出した。









私に優しい箱庭の世界から、一歩、外へ







私の居場所は、『ここ』にある。






「大丈夫、大丈夫……俺がいるよ。真見さんはもう十分一人で頑張ったんだから」






頬を柔らかく包まれて、島津くんと見つめ合う。






「俺が、真見さんのそばにいるよ。それだけじゃ、だめかな?」



「……っ!」






じわりと瞳から涙があふれて、唇を噛み締めた。






暖かい言葉が、傷だらけな心臓を、優しく包み込んでいく。






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