島津くんしっかりしてください
「……なんてね。冗談」





「……っぇ、」





「怖い顔しないでよ~じょーだんだって。鞠亜が俺の事を好き~? ないない。もしあったとしても、俺は誰とも付き合う気がないしね~」





「付き合う気が、ない……?」









それは、意外な言葉だった。






オウムのように先輩の言葉を復唱して、首を傾げた。






どうして……?









先輩は、モテるらしいし、それに、こんな性格だ。









それなのに、どうして。







目を見開く私に、先輩はまた一つ笑みを漏らして。








「言ったことあるでしょ? 俺と誠ちゃんは似てるんだって」



「にて……る………?」




「そーそー。よし、ずっとここで話してんのもあれだし、そろそろ外に出よっかー」










先輩に言われるがまま、従うしかなくて。






似てる……似てる?









前に言われたときは、私と先輩の性質の話だと思ってた。









だけど、……もしかして、違うの?










先輩は、何を隠してる?







廊下に出て、あまりの眩さに目を薄める。








いつの間にか暗闇に慣れていたらしい。








揺らす視界の中で、先輩の黒い瞳が嫌に鮮明に見えて。










暗い瞳には、まつ毛の影が落ちて、底が見えない。










笑っているのに。







確かに、笑っているはずなのに。









今までに見たことがないような、切なげな雰囲気を漂わせていた。









………なに、その顔。










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