島津くんしっかりしてください
急に動きを止めた私に、先輩はいぶかしむように眉を寄せて、首を傾げる。










「誠ちゃん?」




「……何でもないです」









にっこりと笑顔を浮かべて、首を横に振った。









それから、私の手からケーキを受け取ろうとする鹿島先輩の耳にそっと、囁いた。









「……島津くん、鞠亜さんに告白したんですよ」




「……っ」








ぴくんと、眉が一瞬痙攣したかのように動く。








聞こえるか、聞こえないか微妙な音量だったけど、しっかりと声は届いたようだ。








ちらりとこちらに視線を送り、ハッと短く息を吐く。










「……それの、どこが俺に関係あるの」







へらり、と感情の読めない笑顔。






見慣れた、一番彼らしいと思える表情。









……思えば、先輩はいつもこんな顔をして笑っていた。









にこにこと本心を悟らせず、自分の絶対領域から他人を排除する。









そんな部分も、私によく似ている側面だった。








似ているからこそ、わかることがある。










本心を押し隠すことが決していい決断でないことは、身をもって知ったから。










< 256 / 372 >

この作品をシェア

pagetop