島津くんしっかりしてください
「まこちゃん……お願い……」



うるうるうるうるる






澄んだ瞳と目が合って、心臓が撃ち抜かれる。







う、わ……かわいい……っじゃなくて。







「ひ、卑怯ですよ……」



「卑怯がなんぼのもんじゃい! 私は二人に家にいてほしいの~!」






いい大人が駄々をこねて我儘言わないでいただいて……!






ついに反論できなくなってぐっと黙り込む。







「まこちゃん、ことね働いてみたい!」



「いや、だからだめだって……」



「……だめ?」



「だめ……っじゃ、ないです……」






負けた……。






そりゃあ琴音を出されたら私が折れるしかないでしょう。






洋子さんの戦略的勝利だ。






やっぱりこの人は見た目によらず頭脳派らしい。






見ればしたり顔で唇をなめていて、目が合うと豪快なウィンクをかまされた。






煽るようなその仕草に苛立ちを覚えないのは、洋子さんの人柄のせいだろう。






あーあ……。負けちゃったな……。



口論で負けることなんて滅多にないのに。






それでも、そんなに気分は悪くない。






私の一番の願いは琴音が楽しく暮らせること。

望みをかなえてあげること。






さっきまでは意地を張って琴音を働かせるなんてとんでもないと思っていたけれど。






そこで琴音にちらりと視線をやる。





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