島津くんしっかりしてください
真見さんは微かに目を見開いて、それから、口の端だけで微笑んだ。






「……ありがとう」



「……っ」






花が綻ぶかのような、そんな笑み。






儚くて、弱弱しい、庇護欲をあおるかのようなそれに、俺はしばらく見とれていて。



我に返って、ばっと顔をそむけた。








……なんか、真見さんがいつもより無防備な気がする。






いつもは、いかにもな優等生って感じでにこにこと余裕な感じだけど、今は……。






なんだかぼんやりとしていて、普段とは雰囲気から何まで違う。






まるで別人みたいだ。






「真見さん、なんかいつもと雰囲気違うね」






そう問いかけると、真見さんは数回瞬きをした後ハッとしたように表情を引き締める。






「あ……いつもは琴音を寝かしつけたときは一人の時間だったから……気が抜けてたかも。そっか、ここ自分の家じゃないんだもんね。ごめんね? 迷惑かけて」






一瞬で装備された分厚い笑顔の壁。







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