全てを失っても幸せと思える、そんな恋をした。 ~全部をかえた絶世の妻は、侯爵から甘やかされる~
優秀な彼に惹かれる彼女と、侯爵の妻が嫌な彼
アベリアがデルフィーの元を訪ねると、彼は何かの計算をしている途中だった。
「作業の途中なら、そのままきりのいい所まで進めて構わないから。私は勝手にこの辺を見てるね。終わったら声をかけて頂戴」
アベリアは、デルフィーにそう伝えると、彼の作業が終わるまで、執務室の様子を窺う事にした。
「……恐れ入ります。では、お言葉に甘えさせていただきます。直ぐに終わらせますから、少しだけお待ちください」
口調は優しいけど、自分には、彼が少し疲れた顔をしているように見えていたアベリア。
デルフィーの机には、多量の報告書が置かれている。
アベリアは書類の山の角を抑えて、下から上へと親指でパラパラと音を立てて紙を送った――。
この積み上げられた書類全てが、昨日から今日にかけての報告日が記されている。
仕事を溜めている訳ではないのね。逆を返すと、デルフィーは毎日これだけの書類を捌いて、適切に対処しているということか、と、アベリアは理解した。
本棚は綺麗に整理されていて、背表紙には資料の年月日と、この領地の主要生産物と思われるものが書かれているみたいだった。稲、りんご、ぶどう……。
やっぱり、この土地はりんごの収穫が多いと言う事みたいだけど、これまで、ヘイワード侯爵領のりんごの話を耳にしたことは無かったアベリア。
アベリアは、自然と、デルフィーの作業を目で追っていた。
これだけの領地報告の確認作業を彼1人で行っているうえ、彼の様子を見ていると、同じ計算を必ず2回ずつ行い、数字が間違っていないか確認している。
もし、彼の計算が間違っていても、誰も気づかないかもしれないのに、領民の税収の計算まで手を抜いていなかった。
こんな有能な人物が、ヘイワード侯爵の元にいるなんて、アベリアにとって予想外だった。
だけど、どんなに優秀な人物を使っても、デルフィー1人にだけ管理を任せているから、毎日上がってくる報告の処理作業に追われ、領地管理の改善も出来ない訳だと察知する。
王都に居るあの当主は、毎日何をやっているのかと、呆れるアベリア。
アベリアがデルフィーの事を関心していたのとは裏腹に、デルフィーは宣言通りに侯爵夫人が自分の元へやって来た事に、嫌気がさしていた。
それもその筈、この少し前に、アベリアが持ち込んだ荷物を運び込むのを手伝い、今日の仕事が相当遅れていたのだから。
アベリアは自分に手伝わなくてもいいと断っていたが、まさか、女性2人に力仕事をさせて、男のデルフィーが何もしない訳にはいかなかった。
身勝手な侯爵夫人が突然やって来たことも、一見して分かるほど、高価な品々を買い漁っている事も、不快に感じていた。
今日、彼女が来てから、これまで滞ることなく処理していたものが、既に半日以上の遅れをとっていた。
その上、まだ意味をなさない説明まで、自分に求めていると思っていたのだから。
「アベリア様、大変お待たせいたしました。この領地の報告でしたよね。ですが、女主人が、領地の事に関るなんて、ご当主に何か言われてきたんですか?」
デルフィーは唯でさえ忙しいのに、侯爵夫人の気まぐれに振り回される事に煩わしさを感じ、早くこの報告を終えたかった。
「ふふっ、まさか。あの人が、そんなこと言えたら、この領地は正しく管理されていたでしょうね。私は、自分が暮らしていけるお金をきちんと確保したいだけよ」
「そうですか。アベリア様は随分と隠さずに、ものをおっしゃるんですね。では、お金の事を中心にこの領地の事を順番にご説明いたしましょう」
昨日、ヘイワード侯爵から「がめつい女」と言われた事を思い出したアベリアは、彼の前で「お金」と口走ってしまったことに、少しだけ恥ずかしくなった。
「作業の途中なら、そのままきりのいい所まで進めて構わないから。私は勝手にこの辺を見てるね。終わったら声をかけて頂戴」
アベリアは、デルフィーにそう伝えると、彼の作業が終わるまで、執務室の様子を窺う事にした。
「……恐れ入ります。では、お言葉に甘えさせていただきます。直ぐに終わらせますから、少しだけお待ちください」
口調は優しいけど、自分には、彼が少し疲れた顔をしているように見えていたアベリア。
デルフィーの机には、多量の報告書が置かれている。
アベリアは書類の山の角を抑えて、下から上へと親指でパラパラと音を立てて紙を送った――。
この積み上げられた書類全てが、昨日から今日にかけての報告日が記されている。
仕事を溜めている訳ではないのね。逆を返すと、デルフィーは毎日これだけの書類を捌いて、適切に対処しているということか、と、アベリアは理解した。
本棚は綺麗に整理されていて、背表紙には資料の年月日と、この領地の主要生産物と思われるものが書かれているみたいだった。稲、りんご、ぶどう……。
やっぱり、この土地はりんごの収穫が多いと言う事みたいだけど、これまで、ヘイワード侯爵領のりんごの話を耳にしたことは無かったアベリア。
アベリアは、自然と、デルフィーの作業を目で追っていた。
これだけの領地報告の確認作業を彼1人で行っているうえ、彼の様子を見ていると、同じ計算を必ず2回ずつ行い、数字が間違っていないか確認している。
もし、彼の計算が間違っていても、誰も気づかないかもしれないのに、領民の税収の計算まで手を抜いていなかった。
こんな有能な人物が、ヘイワード侯爵の元にいるなんて、アベリアにとって予想外だった。
だけど、どんなに優秀な人物を使っても、デルフィー1人にだけ管理を任せているから、毎日上がってくる報告の処理作業に追われ、領地管理の改善も出来ない訳だと察知する。
王都に居るあの当主は、毎日何をやっているのかと、呆れるアベリア。
アベリアがデルフィーの事を関心していたのとは裏腹に、デルフィーは宣言通りに侯爵夫人が自分の元へやって来た事に、嫌気がさしていた。
それもその筈、この少し前に、アベリアが持ち込んだ荷物を運び込むのを手伝い、今日の仕事が相当遅れていたのだから。
アベリアは自分に手伝わなくてもいいと断っていたが、まさか、女性2人に力仕事をさせて、男のデルフィーが何もしない訳にはいかなかった。
身勝手な侯爵夫人が突然やって来たことも、一見して分かるほど、高価な品々を買い漁っている事も、不快に感じていた。
今日、彼女が来てから、これまで滞ることなく処理していたものが、既に半日以上の遅れをとっていた。
その上、まだ意味をなさない説明まで、自分に求めていると思っていたのだから。
「アベリア様、大変お待たせいたしました。この領地の報告でしたよね。ですが、女主人が、領地の事に関るなんて、ご当主に何か言われてきたんですか?」
デルフィーは唯でさえ忙しいのに、侯爵夫人の気まぐれに振り回される事に煩わしさを感じ、早くこの報告を終えたかった。
「ふふっ、まさか。あの人が、そんなこと言えたら、この領地は正しく管理されていたでしょうね。私は、自分が暮らしていけるお金をきちんと確保したいだけよ」
「そうですか。アベリア様は随分と隠さずに、ものをおっしゃるんですね。では、お金の事を中心にこの領地の事を順番にご説明いたしましょう」
昨日、ヘイワード侯爵から「がめつい女」と言われた事を思い出したアベリアは、彼の前で「お金」と口走ってしまったことに、少しだけ恥ずかしくなった。