全てを失っても幸せと思える、そんな恋をした。 ~全部をかえた絶世の妻は、侯爵から甘やかされる~
愛おしい彼女を喜ばせたい彼
アベリアが作った「ヘイワード侯爵領の化粧水」は、瞬く間に、貴族達の間で話題の品になっていた。高級な瓶に詰めて、貴族向けに販売したのが良かったのだ。
効果は非常に高いけど、原料は庭中に雑草のように広がったものだった。
マネッチアは、「詐欺のようだ」と、とりわけ主へ冷たい視線を向けていた。
アベリアは、その度に「気位の高い貴族のご婦人相手だから、安くしては寧ろ売れなくなる」と説明をしていた。
アベリアの父へお願いしたことで、この邸へ来てくれた御者のラウル。
商品の運搬や力仕事は、ラウルに全て任せることが出来て、侯爵領の新しい資金集めは、順調に進んでいた。
同時に、これから必要になる果汁を絞るための機械も調達していた。
そして、彼女はデルフィーの元を訪ね、更に資金を作る方法を練っていた。
デルフィーは、目の前にいるアベリアの気持ちに、何となくだけど、気づき始めていた。
初めは、怒っているのかと思った彼女の頬の紅潮は、彼女が、自分から見つめられていることに気づいた後に、決まって見ることが出来た。
白い肌をほんのりとピンク色に染めて、元々可愛いアベリアが、益々可愛らしく見えた。だから、そんな可愛い彼女が見たくて、わざと気づかれるまで見つめてしまうデルフィー。
今もまた、彼女の頬は、可愛いピンク色になっていたし、照れくさそうな顔で笑っていた。そして、それを見て嬉しくなっていたデルフィー。
「デルフィー、この暖かい気候でリンゴは良く育つの?」
「あー、そうですね、味は悪くありませんが、色づきが悪いため安値でしか取引されませんね。ですから、収益は大きいとは言えません。この気候故、間もなく収穫の時期ですが、日持ちが悪いのも難点ですね」
「そう、じゃあ売り物にならない傷物も含めて、そのリンゴを出来るだけたくさん売って欲しいんだけど」
「アベリア様は、また何かを売り出すのですか?」
アベリアが次に何を始めるのか、楽しみでしかないデルフィーは、こうして彼女と話していることに幸せを感じていた。そして、お金を得た結果ではなく、彼女が全力で頑張っている姿を愛らしく感じていた。
一人で頑張り過ぎてしまう彼女へ、自分が出来ることは、何でもしてあげたいと思っていたデルフィー。
「うん、この後の準備もかねてね。出来たら一番初めにデルフィーに味見をしてもらうわね」
思ってもいなかったご指名に、嬉しくて、彼女の事を抱きしめたかった。
でも、それは、自分がしたいことで、2人の関係では、決して許されないと、必死に堪えたデルフィー。
これまでアベリアに長く仕えているマネッチアではなく、自分の所へ一番初めに持って来てくれると言った彼女の事が、たまらなく愛おしかった。
彼女は自分にとっては、決して手に入れることの出来ない侯爵夫人。
だから、ただの執事という立場の自分が、彼女の為に出来る事は限られている。
それでも、自分に出来ることは何でも彼女にしてあげて、彼女を喜ばせたかったデルフィー。
「それは楽しみが出来ました。では、私からもアベリア様と一緒に味わいたいものがあったので、すぐに用意いたしますね」
微笑んで立ち上がったデルフィーは、彼の長い指をしなやかに動かし、手際よく紅茶を注ぐ。そして、静かに音を立てずに置かれた紅茶からは、ほのかにフルーティーな香りが立っていた。
甘くて、ほんのりとリンゴの香りがする紅茶。
「――おいしい」
デルフィーは、にこにこと笑っている彼女の顔を見ているだけで良かった。
彼女のぷっくりとしたピンクの唇が、熱い紅茶へフゥ~フゥ~と息をかけている。その姿に、自分が魅入られていることは、決して知られてはいけなかった。
「ふふっ、喜んでいただいて良かった。この領地のリンゴの花から出来るハチミツなんです。リンゴ農家が趣味で作っているものなんですけどね」
そう言って、彼は嬉しそうに笑った。
これまで自分は、たった1人でヘイワード侯爵領を管理していた。
自分は、この領地の事を誰よりも知っていたし、領民たちの暮らしが楽になるよう常に何かをしたいと思っていた。けれど、何も出来なかったデルフィー。
それなのに、彼女がこの領地へやって来て、たったの数か月で大きく事態は動き出した。
彼女が居ればあと数年で、この領地は、この国1番と成り得る程、豊かな暮らしが出来ることは、優秀な彼には分かっていた。
だからこそ、自分が、彼女の侯爵夫人という立場を、失わせる訳にはいかなかった。
大好きな彼女は侯爵夫人で、自分が仕えている主の妻だった。己が彼女へ欲を向けなければ、沢山の人間が幸福になるはずだと思っていた。
効果は非常に高いけど、原料は庭中に雑草のように広がったものだった。
マネッチアは、「詐欺のようだ」と、とりわけ主へ冷たい視線を向けていた。
アベリアは、その度に「気位の高い貴族のご婦人相手だから、安くしては寧ろ売れなくなる」と説明をしていた。
アベリアの父へお願いしたことで、この邸へ来てくれた御者のラウル。
商品の運搬や力仕事は、ラウルに全て任せることが出来て、侯爵領の新しい資金集めは、順調に進んでいた。
同時に、これから必要になる果汁を絞るための機械も調達していた。
そして、彼女はデルフィーの元を訪ね、更に資金を作る方法を練っていた。
デルフィーは、目の前にいるアベリアの気持ちに、何となくだけど、気づき始めていた。
初めは、怒っているのかと思った彼女の頬の紅潮は、彼女が、自分から見つめられていることに気づいた後に、決まって見ることが出来た。
白い肌をほんのりとピンク色に染めて、元々可愛いアベリアが、益々可愛らしく見えた。だから、そんな可愛い彼女が見たくて、わざと気づかれるまで見つめてしまうデルフィー。
今もまた、彼女の頬は、可愛いピンク色になっていたし、照れくさそうな顔で笑っていた。そして、それを見て嬉しくなっていたデルフィー。
「デルフィー、この暖かい気候でリンゴは良く育つの?」
「あー、そうですね、味は悪くありませんが、色づきが悪いため安値でしか取引されませんね。ですから、収益は大きいとは言えません。この気候故、間もなく収穫の時期ですが、日持ちが悪いのも難点ですね」
「そう、じゃあ売り物にならない傷物も含めて、そのリンゴを出来るだけたくさん売って欲しいんだけど」
「アベリア様は、また何かを売り出すのですか?」
アベリアが次に何を始めるのか、楽しみでしかないデルフィーは、こうして彼女と話していることに幸せを感じていた。そして、お金を得た結果ではなく、彼女が全力で頑張っている姿を愛らしく感じていた。
一人で頑張り過ぎてしまう彼女へ、自分が出来ることは、何でもしてあげたいと思っていたデルフィー。
「うん、この後の準備もかねてね。出来たら一番初めにデルフィーに味見をしてもらうわね」
思ってもいなかったご指名に、嬉しくて、彼女の事を抱きしめたかった。
でも、それは、自分がしたいことで、2人の関係では、決して許されないと、必死に堪えたデルフィー。
これまでアベリアに長く仕えているマネッチアではなく、自分の所へ一番初めに持って来てくれると言った彼女の事が、たまらなく愛おしかった。
彼女は自分にとっては、決して手に入れることの出来ない侯爵夫人。
だから、ただの執事という立場の自分が、彼女の為に出来る事は限られている。
それでも、自分に出来ることは何でも彼女にしてあげて、彼女を喜ばせたかったデルフィー。
「それは楽しみが出来ました。では、私からもアベリア様と一緒に味わいたいものがあったので、すぐに用意いたしますね」
微笑んで立ち上がったデルフィーは、彼の長い指をしなやかに動かし、手際よく紅茶を注ぐ。そして、静かに音を立てずに置かれた紅茶からは、ほのかにフルーティーな香りが立っていた。
甘くて、ほんのりとリンゴの香りがする紅茶。
「――おいしい」
デルフィーは、にこにこと笑っている彼女の顔を見ているだけで良かった。
彼女のぷっくりとしたピンクの唇が、熱い紅茶へフゥ~フゥ~と息をかけている。その姿に、自分が魅入られていることは、決して知られてはいけなかった。
「ふふっ、喜んでいただいて良かった。この領地のリンゴの花から出来るハチミツなんです。リンゴ農家が趣味で作っているものなんですけどね」
そう言って、彼は嬉しそうに笑った。
これまで自分は、たった1人でヘイワード侯爵領を管理していた。
自分は、この領地の事を誰よりも知っていたし、領民たちの暮らしが楽になるよう常に何かをしたいと思っていた。けれど、何も出来なかったデルフィー。
それなのに、彼女がこの領地へやって来て、たったの数か月で大きく事態は動き出した。
彼女が居ればあと数年で、この領地は、この国1番と成り得る程、豊かな暮らしが出来ることは、優秀な彼には分かっていた。
だからこそ、自分が、彼女の侯爵夫人という立場を、失わせる訳にはいかなかった。
大好きな彼女は侯爵夫人で、自分が仕えている主の妻だった。己が彼女へ欲を向けなければ、沢山の人間が幸福になるはずだと思っていた。