全てを失っても幸せと思える、そんな恋をした。 ~全部をかえた絶世の妻は、侯爵から甘やかされる~
彼が好きだから、何も言わない彼女の幸せ
アベリアは、リンゴハチミツが入った紅茶を飲みながら、このハチミツと、この紅茶を淹れてくれたデルフィーを重ねていた。
紅茶を口に含むと、デルフィーのような優しい甘さが、口腔内から体の中まで伝わるようだった。コクっと飲み込むと、最後に微かな香りが抜けてきた。
微かにリンゴの香りがする繊細な感じが、彼にとても似ていると思っていた。
それと同時に、自分はデルフィーの事をほとんど知らない事に少し寂しく感じ、彼の事がもっと知りたくなったアベリア。
彼の事を知れば、2人の距離がもっと縮まるような気がした。
「ねぇデルフィーは、一人でこの邸で仕事をしていて、寂しくなかったの?」
「うーん、余りに忙し過ぎて、寂しいと思う時間などありませんでしたよ。今は私の仕事の半分を、アベリア様が処理してくれるので、自分の感情を考える時間は出来ましたけどね」
「えっ、……どんなことを考えてるのよ?」
「毎日が楽しくなったなぁーって。今みたいに、一緒にお茶を楽しむ相手がいるんですから、自分は幸せだなって思いますし、後は……。ふふっ、男特有の個人的な感情ですから、女性へお伝えするのはお控えしておきます」
「ちょ、ちょっと一緒にいる時に、もしかして、なんか変な事考えてるの――。デルフィーの馬鹿」
「ん、どうしてですか? 長年事務仕事に忙殺されてて、体が鈍っているので、『もう少し、体を鍛えたいなー』と、考えているだけで、変な事なんて考えてないですけど。ふふふっ、むしろアベリア様の方が今、何を考えてるんですか?」
「――なっ、なっ。もーぅ、何も考えてないもん。デルフィーの意地悪っ!」
「ぷっ、ふふっ。すみません、その方が『モテるかな?』と、思った不純な動機が、恥ずかしかったので、誤魔化してしまいました。もしかして、私の考えてた事に気づいてたんですか?」
「まぁ、そういう事にしておいて。ふふっ」
顔を真っ赤にしているアベリアの事を見てデルフィーが笑い、怒っていたはずのアベリアも、つられて笑っていた。
アベリアが作る色々な顔が見たくて、わざと彼女の心を揺さぶる事を口にするデルフィー。
そんな彼は知っていた。
彼女は侯爵夫人になって1年以上経つというのに、夫と触れ合った事が無いということを。
彼女が侯爵夫人として課せられていた事は、冷え切った空気が漂う食堂で、夫婦で摂る晩餐だけだったことを。
これまでは、領地の管理にしか興味の無かったデルフィーが、彼女の事を、王都にいる執事へ手紙を送って調べていた。
彼と彼女の温かな時間は、燃え上がるような熱のあるものでは無いけれど、幸せそのものだった。
アベリアにとって、これまで経験をしたことのない感情だったけど、何となくだけど分かっていた。
きっとこれは、口に出して伝えてしまっては、取り返しの出来ない事態になる感情だと言うことを。
自分は侯爵夫人で、彼は侯爵家で仕える従者だった。
おそらくデルフィーも、自分と同じ感情を持っていると確信していたけど言えなかったアベリア。
彼はとても賢い人だから、デルフィーを困らせるようなことはしたくなかった。
彼と一度でも過ちを犯せば、自分は、彼の事をもっともっと欲深く求めてしまう。
そうなれば、自分の気持ちに歯止めが利かなくなるのは、分かっていた。
彼を欲してしまったら、引き戻せなくなる。
だから、自分には、この小さな幸せで十分だと満足していたアベリア。
2人の関係が平和過ぎて、王都の邸で毒を盛られた事など、すっかり過去の事として忘れ去っていた。
この時のアベリアは、ハイエナのように金の匂いを嗅ぎつける、自分の夫の存在の事も薄れかけていた。
夫が突然やって来て、暴言を吐き散らし、自分が失意のどん底に落とされる事態が起きることも、全く気付いていなかったアベリア。
紅茶を口に含むと、デルフィーのような優しい甘さが、口腔内から体の中まで伝わるようだった。コクっと飲み込むと、最後に微かな香りが抜けてきた。
微かにリンゴの香りがする繊細な感じが、彼にとても似ていると思っていた。
それと同時に、自分はデルフィーの事をほとんど知らない事に少し寂しく感じ、彼の事がもっと知りたくなったアベリア。
彼の事を知れば、2人の距離がもっと縮まるような気がした。
「ねぇデルフィーは、一人でこの邸で仕事をしていて、寂しくなかったの?」
「うーん、余りに忙し過ぎて、寂しいと思う時間などありませんでしたよ。今は私の仕事の半分を、アベリア様が処理してくれるので、自分の感情を考える時間は出来ましたけどね」
「えっ、……どんなことを考えてるのよ?」
「毎日が楽しくなったなぁーって。今みたいに、一緒にお茶を楽しむ相手がいるんですから、自分は幸せだなって思いますし、後は……。ふふっ、男特有の個人的な感情ですから、女性へお伝えするのはお控えしておきます」
「ちょ、ちょっと一緒にいる時に、もしかして、なんか変な事考えてるの――。デルフィーの馬鹿」
「ん、どうしてですか? 長年事務仕事に忙殺されてて、体が鈍っているので、『もう少し、体を鍛えたいなー』と、考えているだけで、変な事なんて考えてないですけど。ふふふっ、むしろアベリア様の方が今、何を考えてるんですか?」
「――なっ、なっ。もーぅ、何も考えてないもん。デルフィーの意地悪っ!」
「ぷっ、ふふっ。すみません、その方が『モテるかな?』と、思った不純な動機が、恥ずかしかったので、誤魔化してしまいました。もしかして、私の考えてた事に気づいてたんですか?」
「まぁ、そういう事にしておいて。ふふっ」
顔を真っ赤にしているアベリアの事を見てデルフィーが笑い、怒っていたはずのアベリアも、つられて笑っていた。
アベリアが作る色々な顔が見たくて、わざと彼女の心を揺さぶる事を口にするデルフィー。
そんな彼は知っていた。
彼女は侯爵夫人になって1年以上経つというのに、夫と触れ合った事が無いということを。
彼女が侯爵夫人として課せられていた事は、冷え切った空気が漂う食堂で、夫婦で摂る晩餐だけだったことを。
これまでは、領地の管理にしか興味の無かったデルフィーが、彼女の事を、王都にいる執事へ手紙を送って調べていた。
彼と彼女の温かな時間は、燃え上がるような熱のあるものでは無いけれど、幸せそのものだった。
アベリアにとって、これまで経験をしたことのない感情だったけど、何となくだけど分かっていた。
きっとこれは、口に出して伝えてしまっては、取り返しの出来ない事態になる感情だと言うことを。
自分は侯爵夫人で、彼は侯爵家で仕える従者だった。
おそらくデルフィーも、自分と同じ感情を持っていると確信していたけど言えなかったアベリア。
彼はとても賢い人だから、デルフィーを困らせるようなことはしたくなかった。
彼と一度でも過ちを犯せば、自分は、彼の事をもっともっと欲深く求めてしまう。
そうなれば、自分の気持ちに歯止めが利かなくなるのは、分かっていた。
彼を欲してしまったら、引き戻せなくなる。
だから、自分には、この小さな幸せで十分だと満足していたアベリア。
2人の関係が平和過ぎて、王都の邸で毒を盛られた事など、すっかり過去の事として忘れ去っていた。
この時のアベリアは、ハイエナのように金の匂いを嗅ぎつける、自分の夫の存在の事も薄れかけていた。
夫が突然やって来て、暴言を吐き散らし、自分が失意のどん底に落とされる事態が起きることも、全く気付いていなかったアベリア。