全てを失っても幸せと思える、そんな恋をした。 ~全部をかえた絶世の妻は、侯爵から甘やかされる~
妻のお金に目を付ける夫
侯爵領でアベリアとデルフィーが温かな時間を過ごしていた、その頃。
王都のヘイワード侯爵邸で、アベリアの夫は考えあぐねいていた。
侯爵がブツブツと独り言のように呟くその内容は、近くにいる執事でさえ、聞き取ることはできなかった。
****
飼料の貿易事業もやっと軌道に乗り始め、大きな収益とは言えないまでも、経営は上手くいきかけていたんだ。
だから、アベリアがもたらした結婚支度金は、領地管理の投資に回すつもりだった。領地管理を任せているデルフィーから、再三に渡って投資の必要性を訴える手紙が届いていたしな。
なのに、結婚から1年も経たずに、その金は底をついた。
エリカがアベリアの着ているドレスが羨ましいと、強請り始めたせいで私的な出費が増えたんだ。
畜生、あの女が、あんなドレスなんか見せなきゃ、純情なエリカが欲しがることも無かったはずだ。
俺としても、最愛のエリカがいるのに結婚をしたことや、それまで何も買い与えられなかったことに引け目があるんだ、多少の出費は惜しむつもりなんてなかったさ。
エリカの為に商人を呼び出してやった時には、目を輝かせて喜ぶ姿が可愛かったしな。あの無垢な笑顔を見ると、彼女をもっと喜ばせたいと、俺に思わせたんだ。
だが、そんなしょっちゅう、あんな高価なものは買えないだろう。
だから、俺は止めたはずだ。
それなのになんだあの金額の請求書は、あり得ないだろう。
チッ、何がどうなってんだよ、訳が分からん。
エリカには悪いが返品するしかないな。彼女のサイズで仕立てたドレスは、返品が出来ないのが痛い。売っても大した金額にはならないだろうから、エリカが持っている全ての宝石を売って、凌ぐしかない。まぁ、宝石であれば、そこそこの金額で売れるはずだから、当面は何とかなるだろう。
それにしても、俺がこんなに困っているのに、最近何故か他の貴族達から「ヘイワード侯爵は景気がよろしくて羨ましい」などと、ふざけた事を言われるのが、全く持って腹立たしい。
数回は聞き流していたが、こうして何度も言われると、気味が悪い。
付き合いのある伯爵に聞けば、「ヘイワード侯爵領の化粧水」なるものが、貴族達の間で流行っていて、相当な高値で売られているだと。
『これまで高価な化粧水を使っていたご婦人方にも、効果は値段以上のものだと、大層な評判になっているんだぞ』って言われたが、俺は知らんぞ。
どこかの誰かが、勝手に侯爵領の名前を使って売りだしているのかっ⁉ 怪しからん。早いところ、犯人をとっ捕まえてやる。
あの女が来てから、訳の分からない不愉快な事ばかりだ。
いや、――待てよ……、あいつだ!
侯爵領に引っ込んでいった、あの女が勝手に俺の名前を出して、商売をしているんだ。間違いない、あの高飛車な女なら、考えそうなことだ。
ふっ、「ヘイワード侯爵領の化粧水」だからな、俺にもその金を貰う権利はあるはずだ。
がめつい女の事だ、執事が行ったところで、言い逃れをするだけだろう。不愉快なあの女の顔を見るのは癪だが、俺が直接回収しに行くか。
金だけ貰って、さっさと帰ってくれば、その日のうちに帰って来れるだろう。エリカと過ごす時間が無くなるのは惜しいからな、あの女がごねるようなら、力ずくでも金を奪ってくるか。
****
執事は、不敵な笑みを浮かべる侯爵家当主を、見つめていた。
「ご当主、どうかされましたか?」
「いや、領地へ行った妻の事が心配になってきた。時間のある時にでも、少し様子を見に行ってこようかと思ってな」
「おや、何か心境の変化でもありましたか? これまで、奥様には興味がなかったのに」
「まぁな、離れてみたら気づいたことがあったって事だ。エリカには言うなよ」
「左様ですか。では、今年は社交界に奥様のお姿があるかもしれませんね」
「ふっ、どうかな(ある訳ないだろう。あの女が近くに居るだけで、虫唾が走るのに)」
ケビン・ヘイワード侯爵が、アベリアの前にやって来るのは、直ぐ先のこと。
王都のヘイワード侯爵邸で、アベリアの夫は考えあぐねいていた。
侯爵がブツブツと独り言のように呟くその内容は、近くにいる執事でさえ、聞き取ることはできなかった。
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飼料の貿易事業もやっと軌道に乗り始め、大きな収益とは言えないまでも、経営は上手くいきかけていたんだ。
だから、アベリアがもたらした結婚支度金は、領地管理の投資に回すつもりだった。領地管理を任せているデルフィーから、再三に渡って投資の必要性を訴える手紙が届いていたしな。
なのに、結婚から1年も経たずに、その金は底をついた。
エリカがアベリアの着ているドレスが羨ましいと、強請り始めたせいで私的な出費が増えたんだ。
畜生、あの女が、あんなドレスなんか見せなきゃ、純情なエリカが欲しがることも無かったはずだ。
俺としても、最愛のエリカがいるのに結婚をしたことや、それまで何も買い与えられなかったことに引け目があるんだ、多少の出費は惜しむつもりなんてなかったさ。
エリカの為に商人を呼び出してやった時には、目を輝かせて喜ぶ姿が可愛かったしな。あの無垢な笑顔を見ると、彼女をもっと喜ばせたいと、俺に思わせたんだ。
だが、そんなしょっちゅう、あんな高価なものは買えないだろう。
だから、俺は止めたはずだ。
それなのになんだあの金額の請求書は、あり得ないだろう。
チッ、何がどうなってんだよ、訳が分からん。
エリカには悪いが返品するしかないな。彼女のサイズで仕立てたドレスは、返品が出来ないのが痛い。売っても大した金額にはならないだろうから、エリカが持っている全ての宝石を売って、凌ぐしかない。まぁ、宝石であれば、そこそこの金額で売れるはずだから、当面は何とかなるだろう。
それにしても、俺がこんなに困っているのに、最近何故か他の貴族達から「ヘイワード侯爵は景気がよろしくて羨ましい」などと、ふざけた事を言われるのが、全く持って腹立たしい。
数回は聞き流していたが、こうして何度も言われると、気味が悪い。
付き合いのある伯爵に聞けば、「ヘイワード侯爵領の化粧水」なるものが、貴族達の間で流行っていて、相当な高値で売られているだと。
『これまで高価な化粧水を使っていたご婦人方にも、効果は値段以上のものだと、大層な評判になっているんだぞ』って言われたが、俺は知らんぞ。
どこかの誰かが、勝手に侯爵領の名前を使って売りだしているのかっ⁉ 怪しからん。早いところ、犯人をとっ捕まえてやる。
あの女が来てから、訳の分からない不愉快な事ばかりだ。
いや、――待てよ……、あいつだ!
侯爵領に引っ込んでいった、あの女が勝手に俺の名前を出して、商売をしているんだ。間違いない、あの高飛車な女なら、考えそうなことだ。
ふっ、「ヘイワード侯爵領の化粧水」だからな、俺にもその金を貰う権利はあるはずだ。
がめつい女の事だ、執事が行ったところで、言い逃れをするだけだろう。不愉快なあの女の顔を見るのは癪だが、俺が直接回収しに行くか。
金だけ貰って、さっさと帰ってくれば、その日のうちに帰って来れるだろう。エリカと過ごす時間が無くなるのは惜しいからな、あの女がごねるようなら、力ずくでも金を奪ってくるか。
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執事は、不敵な笑みを浮かべる侯爵家当主を、見つめていた。
「ご当主、どうかされましたか?」
「いや、領地へ行った妻の事が心配になってきた。時間のある時にでも、少し様子を見に行ってこようかと思ってな」
「おや、何か心境の変化でもありましたか? これまで、奥様には興味がなかったのに」
「まぁな、離れてみたら気づいたことがあったって事だ。エリカには言うなよ」
「左様ですか。では、今年は社交界に奥様のお姿があるかもしれませんね」
「ふっ、どうかな(ある訳ないだろう。あの女が近くに居るだけで、虫唾が走るのに)」
ケビン・ヘイワード侯爵が、アベリアの前にやって来るのは、直ぐ先のこと。