全てを失っても幸せと思える、そんな恋をした。 ~全部をかえた絶世の妻は、侯爵から甘やかされる~
妊娠を喜ぶ愛人と、渋り始める侯爵
侯爵は、1日中宝石店を巡って、体を動かすことも億劫な程クタクタになっていた。
でも、それ以上に精神的な疲労の方が大きかった。頭の中は空っぽになっていて、次に打つ手を考えられないほどだった。
その侯爵の元に、全く予期していないことが起きた。
借金を返しても余りあるお金と、丁寧な文面で書かれた手紙が、アベリアから届いていた。
それをしばらく見つめていた侯爵は、自分の気持ちの違和感に気づき始めた。
アベリアから受けとったお金によって、抱えていた問題は確かに解決されるはずなのに、何かがすっきりしなかった。
侯爵は、複雑な気持ちを抱えたまま、愛人の収集品を何も言わずにエリカへ返した。
エリカは、それを受け取って飛び跳ねて喜んでいて、静かにその姿を見ていた侯爵の表情は、変わらなかった。
「やっぱりケビン様は、あたしの事を大切に思ってくれているんですね。あたしの宝物を売っちゃうって言ったときは、何かあったかと思ったけど、いつものケビン様に戻って良かった」
媚びるような声を出し、楽しそうに話すエリカとは対照的に、眉間に皺を寄せた侯爵は何も言わなかった。
いや、何も言えなかった。
1件目の宝石店で、売り物にもならないと言われた時には激昂した侯爵だったけど、その後も王都中の宝石店で同じことを言われては、怒りと言う感情さえ持っていなかった。
――――1人楽しそうなエリカに無言で答えた。
「ねぇ、ケビン様。今日ね、お医者様に診てもらったの。そうしたらねぇ、やっぱり赤ちゃんがいるんですって! も~ぅ嬉しくって。やっぱり、男の子が良いですよね。そうしたら、ケビン様の跡継ぎですもんね。うふふ、あたし元気な赤ちゃん産みますね」
嬉しそうなエリカは知らなかった。
エリカと侯爵は互いに惹かれている時だけの関係で、公式には何の繋がりもない愛人であることを。
言うなれば唯の同居人だった。
愛人が子どもを産もうと、侯爵がその子どもを、自分の子と認めなければ、跡継ぎになれるはずは無かった。
「今は跡継ぎの事を考える余裕はない。すまないが、その腹の子を私の子だと認める訳にはいかない。もちろん、この別邸で育てて構わんが、その子どもを本邸に招くことは出来ないからそのつもりでいてくれ」
「ねぇ、どうして突然そんなことを言うの? ケビン様の子どもなのにぃ~酷いです。もしかして、あの女に何か言われたんですか?」
エリカは、妊娠を伝えれば、褒められるだろうと思っていた。
それなのに、全く違う反応をされてしまい、ケビンの前では特に気をつけて「アベリアさん」と呼んでいたものを「あの女」と口走ってしまった。
これまでの侯爵であれば、気にならなかったかもしれないけど、この時は聞き逃すことが出来なかった。
「エリカっ、お前が勝手に買った支払いは、アベリアのお陰で出来たんだ。彼女へ失礼な言い方をするな!」
エリカの前で初めて声を荒げた侯爵。
これ以上、エリカの顔を見るのが嫌になり、別邸を後にした。
この夜の侯爵は、エリカが来てから使う事が無かった、自分の部屋にある寝台で眠ることにした。
でも、それ以上に精神的な疲労の方が大きかった。頭の中は空っぽになっていて、次に打つ手を考えられないほどだった。
その侯爵の元に、全く予期していないことが起きた。
借金を返しても余りあるお金と、丁寧な文面で書かれた手紙が、アベリアから届いていた。
それをしばらく見つめていた侯爵は、自分の気持ちの違和感に気づき始めた。
アベリアから受けとったお金によって、抱えていた問題は確かに解決されるはずなのに、何かがすっきりしなかった。
侯爵は、複雑な気持ちを抱えたまま、愛人の収集品を何も言わずにエリカへ返した。
エリカは、それを受け取って飛び跳ねて喜んでいて、静かにその姿を見ていた侯爵の表情は、変わらなかった。
「やっぱりケビン様は、あたしの事を大切に思ってくれているんですね。あたしの宝物を売っちゃうって言ったときは、何かあったかと思ったけど、いつものケビン様に戻って良かった」
媚びるような声を出し、楽しそうに話すエリカとは対照的に、眉間に皺を寄せた侯爵は何も言わなかった。
いや、何も言えなかった。
1件目の宝石店で、売り物にもならないと言われた時には激昂した侯爵だったけど、その後も王都中の宝石店で同じことを言われては、怒りと言う感情さえ持っていなかった。
――――1人楽しそうなエリカに無言で答えた。
「ねぇ、ケビン様。今日ね、お医者様に診てもらったの。そうしたらねぇ、やっぱり赤ちゃんがいるんですって! も~ぅ嬉しくって。やっぱり、男の子が良いですよね。そうしたら、ケビン様の跡継ぎですもんね。うふふ、あたし元気な赤ちゃん産みますね」
嬉しそうなエリカは知らなかった。
エリカと侯爵は互いに惹かれている時だけの関係で、公式には何の繋がりもない愛人であることを。
言うなれば唯の同居人だった。
愛人が子どもを産もうと、侯爵がその子どもを、自分の子と認めなければ、跡継ぎになれるはずは無かった。
「今は跡継ぎの事を考える余裕はない。すまないが、その腹の子を私の子だと認める訳にはいかない。もちろん、この別邸で育てて構わんが、その子どもを本邸に招くことは出来ないからそのつもりでいてくれ」
「ねぇ、どうして突然そんなことを言うの? ケビン様の子どもなのにぃ~酷いです。もしかして、あの女に何か言われたんですか?」
エリカは、妊娠を伝えれば、褒められるだろうと思っていた。
それなのに、全く違う反応をされてしまい、ケビンの前では特に気をつけて「アベリアさん」と呼んでいたものを「あの女」と口走ってしまった。
これまでの侯爵であれば、気にならなかったかもしれないけど、この時は聞き逃すことが出来なかった。
「エリカっ、お前が勝手に買った支払いは、アベリアのお陰で出来たんだ。彼女へ失礼な言い方をするな!」
エリカの前で初めて声を荒げた侯爵。
これ以上、エリカの顔を見るのが嫌になり、別邸を後にした。
この夜の侯爵は、エリカが来てから使う事が無かった、自分の部屋にある寝台で眠ることにした。