全てを失っても幸せと思える、そんな恋をした。 ~全部をかえた絶世の妻は、侯爵から甘やかされる~

彼女が遺す、小さな泡のワイン

アべリアの商才は素晴らしかった。
 彼女が考えた、りんごの実の色をした黄白色のリンゴジュース。
 それは、これまで果汁を絞って作っていた透明なものとは違っていた。
 その新しいリンゴジュースの噂は瞬く間に広がった。
 貴族達の見栄の張り合いの時期と、リンゴジュースを売り始める時期が重なったのが、宣伝をしなくても売れていた。
 貴族達のお茶会やパーティーでは、新しいものをいち早く客人に振舞っていた。
 彼らは、アベリアのリンゴジュースを手に入れて、お茶会やパーティーで披露したかった。
 見栄を張った貴族が、己のことを誇示する為に、高くてもこぞって手に入れたい話題の品となっていた。

 アべリアは、飛ぶように売れるリンゴジュースの事や王都へ戻る準備で、忙しかった。


 リンゴジュースの後は、いよいよワイン作りを始めようとしていた。
 アべリアは、瓶の中に小さな気泡が湧き上がるワインを作りたかった。

 御者でもあり、作業を一緒にしているラウルへ作り方の工程、全てを伝えていた。
 樽の中で発酵させたワインを、その後に、再び瓶の中で発酵させる方法を丁寧に説明していた。

 社交界が終われば戻って来るはずのアベリア。
 ラウルは、アベリアが来年の春以降に行うことまで説明している事に少し違和感を覚えつつ、それを聞いていた。

 ラウルは貴族なのに気取らないアベリアの事を深く慕っていた。
 ラウルでさえ、アべリアが王都へ戻る事に、寂しさを感じているのだ。
 だから、デルフィーは更に寂しくなるだろうと心配もしていた。
 
 
 あと少しで、目の前からアべリアはいなくなってしまう。
 そのカウントダウンが始まっていた。



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