全てを失っても幸せと思える、そんな恋をした。 ~全部をかえた絶世の妻は、侯爵から甘やかされる~
夫を捨てた夜。その夫は知らない事情
アベリアは、ヘイワード侯爵の愛人であるエリカの行動を想像していた。
アベリアが抱くエリカの印象は、ふわふわの髪をなびかせ、甘えた声とクリクリの大きな瞳を上目で遣って、ひたすら夫に媚びている女性だった。
彼女はいつだって、夫である侯爵に甘えているように見えていたし、侯爵の方も、エリカに甘えらているのが嬉しそうにしていて、夫の表情は緩んでいた。そう、侯爵は、妻に見せる表情とは全く違う顔を、愛人エリカには見せていた。
それに、侯爵とエリカが2人でいるところにアベリアが遭遇すれば、いつでも、侯爵の腕にエリカが腕を絡め、体を密着させて、親密そうな姿を、アベリアへ見せつけていた。
エリカは決まって、すれ違いざまに振り返るのだ。そして、アベリアに向けて、勝ち誇った表情を作っていた。
もちろん、そんな表情は侯爵に気づかれないよう、妻にだけ見せていた一面だった。
エリカは、侯爵の愛情を独り占めしている事に、意気揚々としていた。
自分が、愛し合う2人を引き裂くことはしたくなかった。だから、愛人が自分にだけ見せていた一面でさえ、気に留めることは無かった。
だけど、エリカの本性は、アベリアの理解が到底及ばない愛人だったようだ。
アベリアは小さな声で呟いていた。
「エリカさんは、厨房の中にも、仲の良いご友人がいらっしゃるのかもね。まぁ、こんなゆるゆるの愛人なら、侯爵の子を宿したと言っても、実際には誰の子か分かったものじゃないわ。でも、私には関係ないから、もう何も言わないけどね」
アベリアの実家は、男爵家という猫の額ほどの領地しか管理していない。けれど、その当主の知識と分析力によって、この国の公爵家以上の資産を保有している。
アベリア自身も、父の先見の明と好機を逃さない俊敏さに、いつも驚かされていた。
半面、娘の事も道具の一つと割り切る冷淡さに呆れていた。
娘の教育にだけは、少しの出費を惜しまなかった父親。男爵は娘に多くの知識と教養を与えていた。それも、また、金に変わると思っていたから。
男爵は、社交界で良い噂の無いヘイワード侯爵へ、娘を嫁がせてまで上位貴族との関係を作りたかった。幸せにならない結婚を、娘にさせる。そんな冷酷な思考の持ち主が、アベリアの父親だった。
娘が離婚を切り出しても取り合ってはもらえない。
そして、離婚ができても、一度汚名のついた娘のことは、容赦なく切り捨てる事は分かりきっていた。
アベリアには、金銭管理の厳しいその父親が、侯爵家を持ち直すまでの多額の資金を費やしたと言う事が腑に落ちていなかった。
どう考えても、高位貴族との縁故だけでは、割に会わない程の結婚支度金を、男爵は負担していた。
ヘイワード侯爵家には、それ以上の回収が見込める何かがあると、アベリアは思っていた。
アベリアも、結婚初日は17歳の純情な少女だった。
ただの紙切れだけの結婚になると分かって、父親に売られたとは思いたくなかった。
初めてこの邸へ足を踏み入れるまでは、ヘイワード侯爵を夫として、共に人生を歩んでいきたいと思っていた。
純情な乙女の気持ちは、たった一瞬でヘイワード侯爵に踏みにじられしまった。その屈辱は、彼女なりのやり方で晴らすつもりでいる。
最後の晩餐で、夫を引き留めた言葉。
夫の気持ちが少しでも自分に向いていれば、彼女の気持ちも変わったかもしれない。
アベリアが抱くエリカの印象は、ふわふわの髪をなびかせ、甘えた声とクリクリの大きな瞳を上目で遣って、ひたすら夫に媚びている女性だった。
彼女はいつだって、夫である侯爵に甘えているように見えていたし、侯爵の方も、エリカに甘えらているのが嬉しそうにしていて、夫の表情は緩んでいた。そう、侯爵は、妻に見せる表情とは全く違う顔を、愛人エリカには見せていた。
それに、侯爵とエリカが2人でいるところにアベリアが遭遇すれば、いつでも、侯爵の腕にエリカが腕を絡め、体を密着させて、親密そうな姿を、アベリアへ見せつけていた。
エリカは決まって、すれ違いざまに振り返るのだ。そして、アベリアに向けて、勝ち誇った表情を作っていた。
もちろん、そんな表情は侯爵に気づかれないよう、妻にだけ見せていた一面だった。
エリカは、侯爵の愛情を独り占めしている事に、意気揚々としていた。
自分が、愛し合う2人を引き裂くことはしたくなかった。だから、愛人が自分にだけ見せていた一面でさえ、気に留めることは無かった。
だけど、エリカの本性は、アベリアの理解が到底及ばない愛人だったようだ。
アベリアは小さな声で呟いていた。
「エリカさんは、厨房の中にも、仲の良いご友人がいらっしゃるのかもね。まぁ、こんなゆるゆるの愛人なら、侯爵の子を宿したと言っても、実際には誰の子か分かったものじゃないわ。でも、私には関係ないから、もう何も言わないけどね」
アベリアの実家は、男爵家という猫の額ほどの領地しか管理していない。けれど、その当主の知識と分析力によって、この国の公爵家以上の資産を保有している。
アベリア自身も、父の先見の明と好機を逃さない俊敏さに、いつも驚かされていた。
半面、娘の事も道具の一つと割り切る冷淡さに呆れていた。
娘の教育にだけは、少しの出費を惜しまなかった父親。男爵は娘に多くの知識と教養を与えていた。それも、また、金に変わると思っていたから。
男爵は、社交界で良い噂の無いヘイワード侯爵へ、娘を嫁がせてまで上位貴族との関係を作りたかった。幸せにならない結婚を、娘にさせる。そんな冷酷な思考の持ち主が、アベリアの父親だった。
娘が離婚を切り出しても取り合ってはもらえない。
そして、離婚ができても、一度汚名のついた娘のことは、容赦なく切り捨てる事は分かりきっていた。
アベリアには、金銭管理の厳しいその父親が、侯爵家を持ち直すまでの多額の資金を費やしたと言う事が腑に落ちていなかった。
どう考えても、高位貴族との縁故だけでは、割に会わない程の結婚支度金を、男爵は負担していた。
ヘイワード侯爵家には、それ以上の回収が見込める何かがあると、アベリアは思っていた。
アベリアも、結婚初日は17歳の純情な少女だった。
ただの紙切れだけの結婚になると分かって、父親に売られたとは思いたくなかった。
初めてこの邸へ足を踏み入れるまでは、ヘイワード侯爵を夫として、共に人生を歩んでいきたいと思っていた。
純情な乙女の気持ちは、たった一瞬でヘイワード侯爵に踏みにじられしまった。その屈辱は、彼女なりのやり方で晴らすつもりでいる。
最後の晩餐で、夫を引き留めた言葉。
夫の気持ちが少しでも自分に向いていれば、彼女の気持ちも変わったかもしれない。