全てを失っても幸せと思える、そんな恋をした。 ~全部をかえた絶世の妻は、侯爵から甘やかされる~
執事の元へやって来る愛人、わざと丁寧に対応する彼
エリカは泣きながら執事のいる部屋をノックした。
涙を流しているのは、あざといエリカの演技もあったけど、実際の所、本当に感情が乱されていた。
愛するケビンを失って悲しかったし、今しがた料理長が言っていた、ケビンがアベリアへ向けた気遣いも悔しくて堪らなかった。
あの女に対して、愛するケビンが晩餐のメニューを気にかけていたなんて信じられない。
そんなことをするなんて、全くもって予想外だった。
毎晩、耳元で甘く「愛してる」と囁いてくれた言葉。
「一番かわいいのはエリカで、妻には全く興味がない」と、心をくすぐった言葉。
自分に向けられた言葉は、全て嘘だったのか?
エリカが強請れば何でも買ってくれた、気前の良い男性。それは、これまでの人生でケビンだけだった。
自分だけに色々与えてくれたケビンが、あの女の食べたいものを用意するように、従者へ命令するのが許せなかった。
自分を優しく愛撫してくれていた、ケビンの優しい手や口も自分だけに向けられていた。
自分は、ケビンの特別だと思っていたけど、「本当に騙されていたのか」と、悔しくなった。
アベリアを殺す為に利用した、崩れた顔の男。
自分の画策が露呈しても、「その男の妄言だ」と言えば、誰も疑わないだろう。そう思って選んだ飼い犬だった。
いつも、自分を持ち上げていたくせに、突然、調子に乗って自分に襲い掛かって来た。
たった今、手名付けていたはずの臆病な飼い犬が噛みついて来た。
悔しくて、憎たらしくて我慢できなかった。
そして、ぽつりと呟いた。
「臭いし、ベタベタして気持ち悪い。何なのよ、もう。次期当主の母へこんな事したんだから、クビなんかじゃ済まないんだから」
湯あみでもしてくればいいものを、あまりの腹立たしさに、一刻も早く追放したくてそのままやって来たエリカ。
歩く度に、何かが出てくるような不快感もさておき、執事の部屋の前に立っている。
目の前の扉が開いた途端「ぐすっぐすっ」と、声を出し、泣いている事がしっかりと伝わるようにするエリカ。
それを見て戸惑う執事。
その執事は、突然訪れたエリカのことを、自分ひとりの判断で話を聞き始める訳にも、追い返す訳にもいかなかった。
この部屋には、すでに、エリカよりも立場のある来訪者がいたから。
執事は、今から少し前にこの部屋に来ていたデルフィーへ、判断を仰いだ。
「すみませんデルフィー様、えっと、別邸に住まわれているケビン様のお相手が、突然こちらを訪ねて来られました。なんだか、ただならぬ様子ですが、どういたしましょうか?」
デルフィーは、この後にエリカの事を呼び出す予定だった。むしろ、ネズミからやって来てくれて、願ってもなかった。
「エリカ様ですよね。初めてお目にかかります、デルフィーと申します。突然の訃報、心中お察しいたします」
一応は、前当主の愛妾として丁寧な扱いをするデルフィー。
エリカは愛するケビンに似ているデルフィーが、ケビン以上に優しい声をかけてくるのだから、一瞬で計算を始める。
この際、使用人でも構わない。
寂しさを紛らわすため、この優しい人を近くに置きたいと。
「デルフィーさん初めまして。あたし、この邸の使用人の事で相談に来たの。この邸の料理長が、侯爵家の跡継ぎを産む、あたしに不敬なことをしたから追い出してちょうだい」
当主継承に関する書類を確認している最中のデルフィーへ、不敬な発言をするエリカ。同席する執事は目を丸くしている。
エリカとデルフィーは気にする素振りはない。
「……と、言われましても、いったい何をされたんですか? エリカ様」
チラリと執事を見るエリカ。
「ぅ~ん、ここじゃ言えないから、それはあたしの部屋で話すことにするわ」
ケビンが赤い花の毒で亡くなったこと。犯人は料理長と知っているのは、都合が悪かったエリカ。
以前、自分がアベリアを殺す為に赤い花の球根を用意して、料理長へ渡したことが露呈するのは避けたかった。そのせいで、ケビンの殺害を企てたのはエリカだと、が疑われるのは避けたかった。
無関係な料理長から一方的に行為を向けられた、可哀そうなエリカとして振舞う。
それだけで、あのクズ男を邸から追い出すのは十分な理由になった。
「料理長があなたに何をしたかは、後ほど伺います。ですが、先ほどおっしゃった侯爵家の跡取りは、正しく修正させてください。エリカ様のお子様は、侯爵家を継ぐことは出来ません。それは、ケビン当主が生前に、あなたのお腹の子を認知していないからです。その意味は、あなたとあなたの子は、この家とは一切関係が無いと言う事なんです」
「そんな馬鹿な話がある訳ないじゃない。ケビン様の子どもなんだから」
「お可哀そうですが、それは覆りません。料理長の事はエリカ様の部屋でゆっくり聞きますので、続きはそちらで」
ふてくされて頬を膨らませ納得しない顔のエリカを、デルフィーは優しく諭した。
涙を流しているのは、あざといエリカの演技もあったけど、実際の所、本当に感情が乱されていた。
愛するケビンを失って悲しかったし、今しがた料理長が言っていた、ケビンがアベリアへ向けた気遣いも悔しくて堪らなかった。
あの女に対して、愛するケビンが晩餐のメニューを気にかけていたなんて信じられない。
そんなことをするなんて、全くもって予想外だった。
毎晩、耳元で甘く「愛してる」と囁いてくれた言葉。
「一番かわいいのはエリカで、妻には全く興味がない」と、心をくすぐった言葉。
自分に向けられた言葉は、全て嘘だったのか?
エリカが強請れば何でも買ってくれた、気前の良い男性。それは、これまでの人生でケビンだけだった。
自分だけに色々与えてくれたケビンが、あの女の食べたいものを用意するように、従者へ命令するのが許せなかった。
自分を優しく愛撫してくれていた、ケビンの優しい手や口も自分だけに向けられていた。
自分は、ケビンの特別だと思っていたけど、「本当に騙されていたのか」と、悔しくなった。
アベリアを殺す為に利用した、崩れた顔の男。
自分の画策が露呈しても、「その男の妄言だ」と言えば、誰も疑わないだろう。そう思って選んだ飼い犬だった。
いつも、自分を持ち上げていたくせに、突然、調子に乗って自分に襲い掛かって来た。
たった今、手名付けていたはずの臆病な飼い犬が噛みついて来た。
悔しくて、憎たらしくて我慢できなかった。
そして、ぽつりと呟いた。
「臭いし、ベタベタして気持ち悪い。何なのよ、もう。次期当主の母へこんな事したんだから、クビなんかじゃ済まないんだから」
湯あみでもしてくればいいものを、あまりの腹立たしさに、一刻も早く追放したくてそのままやって来たエリカ。
歩く度に、何かが出てくるような不快感もさておき、執事の部屋の前に立っている。
目の前の扉が開いた途端「ぐすっぐすっ」と、声を出し、泣いている事がしっかりと伝わるようにするエリカ。
それを見て戸惑う執事。
その執事は、突然訪れたエリカのことを、自分ひとりの判断で話を聞き始める訳にも、追い返す訳にもいかなかった。
この部屋には、すでに、エリカよりも立場のある来訪者がいたから。
執事は、今から少し前にこの部屋に来ていたデルフィーへ、判断を仰いだ。
「すみませんデルフィー様、えっと、別邸に住まわれているケビン様のお相手が、突然こちらを訪ねて来られました。なんだか、ただならぬ様子ですが、どういたしましょうか?」
デルフィーは、この後にエリカの事を呼び出す予定だった。むしろ、ネズミからやって来てくれて、願ってもなかった。
「エリカ様ですよね。初めてお目にかかります、デルフィーと申します。突然の訃報、心中お察しいたします」
一応は、前当主の愛妾として丁寧な扱いをするデルフィー。
エリカは愛するケビンに似ているデルフィーが、ケビン以上に優しい声をかけてくるのだから、一瞬で計算を始める。
この際、使用人でも構わない。
寂しさを紛らわすため、この優しい人を近くに置きたいと。
「デルフィーさん初めまして。あたし、この邸の使用人の事で相談に来たの。この邸の料理長が、侯爵家の跡継ぎを産む、あたしに不敬なことをしたから追い出してちょうだい」
当主継承に関する書類を確認している最中のデルフィーへ、不敬な発言をするエリカ。同席する執事は目を丸くしている。
エリカとデルフィーは気にする素振りはない。
「……と、言われましても、いったい何をされたんですか? エリカ様」
チラリと執事を見るエリカ。
「ぅ~ん、ここじゃ言えないから、それはあたしの部屋で話すことにするわ」
ケビンが赤い花の毒で亡くなったこと。犯人は料理長と知っているのは、都合が悪かったエリカ。
以前、自分がアベリアを殺す為に赤い花の球根を用意して、料理長へ渡したことが露呈するのは避けたかった。そのせいで、ケビンの殺害を企てたのはエリカだと、が疑われるのは避けたかった。
無関係な料理長から一方的に行為を向けられた、可哀そうなエリカとして振舞う。
それだけで、あのクズ男を邸から追い出すのは十分な理由になった。
「料理長があなたに何をしたかは、後ほど伺います。ですが、先ほどおっしゃった侯爵家の跡取りは、正しく修正させてください。エリカ様のお子様は、侯爵家を継ぐことは出来ません。それは、ケビン当主が生前に、あなたのお腹の子を認知していないからです。その意味は、あなたとあなたの子は、この家とは一切関係が無いと言う事なんです」
「そんな馬鹿な話がある訳ないじゃない。ケビン様の子どもなんだから」
「お可哀そうですが、それは覆りません。料理長の事はエリカ様の部屋でゆっくり聞きますので、続きはそちらで」
ふてくされて頬を膨らませ納得しない顔のエリカを、デルフィーは優しく諭した。