全てを失っても幸せと思える、そんな恋をした。 ~全部をかえた絶世の妻は、侯爵から甘やかされる~
何も変わらない侯爵領の邸、辛くなる彼女
デルフィーが、アベリアを探し続けていた反面......。
デルフィーが自分のことを、必至に探しているとは思ってもいなかったアベリア。
そんな彼女は、マネッチアとヘイワード侯爵領で、いたって呑気に暮らしていた。
アベリアにとって、この領地の生活が、彼女の人生で一番幸せを与えてくれた場所だった。
やっぱり彼女は、ここで暮らすことしか考えられなかった。
マネッチアは、長年仕えていたお嬢様の体を、過保護なまでに気遣っていた。
「買い物に行ってきますから、お嬢様はちゃんと大人しくしていてください」
「う~ん。でも、マネッチアに任せっきりって訳には……私も行くよ」
「駄目です! 何かあったらどうするんですか?」
マネッチアは、これまでのアベリアのことをよく見ていた。
その辺に生えている、ただの花に向かって、何も言わず一目散に走りだす姿。
「大丈夫、大丈夫」と言って、重い本棚を一人で運ぼうとするアベリア。
アベリアの突拍子もない行動や無理をするのを心配していたせいで、外に出る用事は、マネッチア1人でこなしていた。
おかげで、アベリアは家にいる事が多かった。
デルフィーが領地中をいくら聞き歩いても、彼女の特徴を伝えていたのでは、見つかる訳が無かった。
そして、彼女の残像を追いかけても、見つかるはずが無かった。
マネッチアは、アベリアに頼まれて、オリーブ農家へ使いに行ったこともあった。
「オリーブの搾りかすが出ている頃だと思うのよ。どうせ捨てるだけなら貰ってこようかな」
呑気な事を言うアベリア。それを、マネッチアが強固に反対していた。
「何を言ってるんですか、重いものなど持ってはいけません。私がたんまりと貰って来ますから家で待っていてください」
「いや、マネッチアも無理しなくていいから」
農家の人達にとっては、以前、侯爵家の人間と一緒にいたマネッチア。
その人物から廃棄するものを要求され、何に使うかという疑問はあれど、理由も聞かずに渡していた。
アベリアは、オリーブの搾りかすを使った石鹸やクリームを作っていた。
作るのは得意なのに、商品名を決めるのが苦手なアベリア。
ただの石鹸やクリームとして売り出されたオリーブ入りの商品の数々。
それは、平民たちの間で評判となり、草の根が広がるように売れていた。
マネッチアは、アベリアへ「ゴミを金貨にした」と冷たく言う割には、ほくほく顔をしていた。
これまで、アベリアが外出することを心配していたマネッチア。
流石に、アベリアが間もなく臨月に入る頃には変わっていた。
「ねえ、マネッチア。少しだけ、見ておきたい景色があるの。すぐに戻って来るから、ちょっとだけ出かけてくるね」
「まあ、そろそろ、いつ出産になるか分かりませんしね。少し体を動かした方が、お産も楽になると言いますから……。気をつけて行って来てください」
気がつけば、1年前のアベリアが、この領地へ始めてやって来た季節になっていた。
子どもが生まれた後は、また、家にいる時間が多くなってしまうアベリア。
彼女は、彼のいる場所を、遠くからただ見たかった。
初めてデルフィーと出会った、あの邸を。
あの時、呼び鈴を鳴らすアベリアの指が震える程に、庭は荒れ果てていた。
きっと今は、領主が変わって様変わりしているはずの景色。
それを確認したかったアベリア。
それを見たら、彼は以前よりずっと、楽に暮らしている事が分かるから。
アベリアは、自分が始めたジュースやオイル作りで、デルフィーの暮らしが変わっているのを知りたかった。
自分は、彼のおかげで幸せだった。彼も幸せであって欲しかった。
なのに……。
「何も変わってない」
と、呟くアベリア。
アベリアは、遠くから、あの懐かしい邸とその庭を見ていた。
相変わらず、雑草だらけの門庭。
やっぱり玄関の前まで、それは生えていた。
侯爵家は、新しい当主になっても使用人を雇えない。
そんな、ずさんな管理をしていることを悲しんでいた。
今も、彼1人で全てを管理しているのだと嘆いていた。
アベリアの想定では、リンゴジュースとオリーブのオイルの収益で、十分過ぎる程、侯爵家は立て直しているはずだった。
だから、彼は以前よりも穏やかに仕事が出来ていると思っていた。
この景色を目に焼き付け、いざ、立ち去ろうとした時、庭園の奥で雑草を抜いている彼が目に入った。
最後に別れた時より、逞しくなった彼の事を見て、相変わらず頬を赤くするアベリア。
黙々と作業する彼の姿に「本当に何も変わらないのね、この家は……」と呟いて、そのまま邸に背を向けた。
彼が、どんな酷い当主に仕えているのか分からない彼女。
だけど、あれ程のお金を正しく管理できないような人物。
前の当主よりも酷い人物に雇われている事が悲しかった。
でも、今の自分には何もできないのが辛かった彼女は、彼を見ていられず立ち去った。
デルフィーが自分のことを、必至に探しているとは思ってもいなかったアベリア。
そんな彼女は、マネッチアとヘイワード侯爵領で、いたって呑気に暮らしていた。
アベリアにとって、この領地の生活が、彼女の人生で一番幸せを与えてくれた場所だった。
やっぱり彼女は、ここで暮らすことしか考えられなかった。
マネッチアは、長年仕えていたお嬢様の体を、過保護なまでに気遣っていた。
「買い物に行ってきますから、お嬢様はちゃんと大人しくしていてください」
「う~ん。でも、マネッチアに任せっきりって訳には……私も行くよ」
「駄目です! 何かあったらどうするんですか?」
マネッチアは、これまでのアベリアのことをよく見ていた。
その辺に生えている、ただの花に向かって、何も言わず一目散に走りだす姿。
「大丈夫、大丈夫」と言って、重い本棚を一人で運ぼうとするアベリア。
アベリアの突拍子もない行動や無理をするのを心配していたせいで、外に出る用事は、マネッチア1人でこなしていた。
おかげで、アベリアは家にいる事が多かった。
デルフィーが領地中をいくら聞き歩いても、彼女の特徴を伝えていたのでは、見つかる訳が無かった。
そして、彼女の残像を追いかけても、見つかるはずが無かった。
マネッチアは、アベリアに頼まれて、オリーブ農家へ使いに行ったこともあった。
「オリーブの搾りかすが出ている頃だと思うのよ。どうせ捨てるだけなら貰ってこようかな」
呑気な事を言うアベリア。それを、マネッチアが強固に反対していた。
「何を言ってるんですか、重いものなど持ってはいけません。私がたんまりと貰って来ますから家で待っていてください」
「いや、マネッチアも無理しなくていいから」
農家の人達にとっては、以前、侯爵家の人間と一緒にいたマネッチア。
その人物から廃棄するものを要求され、何に使うかという疑問はあれど、理由も聞かずに渡していた。
アベリアは、オリーブの搾りかすを使った石鹸やクリームを作っていた。
作るのは得意なのに、商品名を決めるのが苦手なアベリア。
ただの石鹸やクリームとして売り出されたオリーブ入りの商品の数々。
それは、平民たちの間で評判となり、草の根が広がるように売れていた。
マネッチアは、アベリアへ「ゴミを金貨にした」と冷たく言う割には、ほくほく顔をしていた。
これまで、アベリアが外出することを心配していたマネッチア。
流石に、アベリアが間もなく臨月に入る頃には変わっていた。
「ねえ、マネッチア。少しだけ、見ておきたい景色があるの。すぐに戻って来るから、ちょっとだけ出かけてくるね」
「まあ、そろそろ、いつ出産になるか分かりませんしね。少し体を動かした方が、お産も楽になると言いますから……。気をつけて行って来てください」
気がつけば、1年前のアベリアが、この領地へ始めてやって来た季節になっていた。
子どもが生まれた後は、また、家にいる時間が多くなってしまうアベリア。
彼女は、彼のいる場所を、遠くからただ見たかった。
初めてデルフィーと出会った、あの邸を。
あの時、呼び鈴を鳴らすアベリアの指が震える程に、庭は荒れ果てていた。
きっと今は、領主が変わって様変わりしているはずの景色。
それを確認したかったアベリア。
それを見たら、彼は以前よりずっと、楽に暮らしている事が分かるから。
アベリアは、自分が始めたジュースやオイル作りで、デルフィーの暮らしが変わっているのを知りたかった。
自分は、彼のおかげで幸せだった。彼も幸せであって欲しかった。
なのに……。
「何も変わってない」
と、呟くアベリア。
アベリアは、遠くから、あの懐かしい邸とその庭を見ていた。
相変わらず、雑草だらけの門庭。
やっぱり玄関の前まで、それは生えていた。
侯爵家は、新しい当主になっても使用人を雇えない。
そんな、ずさんな管理をしていることを悲しんでいた。
今も、彼1人で全てを管理しているのだと嘆いていた。
アベリアの想定では、リンゴジュースとオリーブのオイルの収益で、十分過ぎる程、侯爵家は立て直しているはずだった。
だから、彼は以前よりも穏やかに仕事が出来ていると思っていた。
この景色を目に焼き付け、いざ、立ち去ろうとした時、庭園の奥で雑草を抜いている彼が目に入った。
最後に別れた時より、逞しくなった彼の事を見て、相変わらず頬を赤くするアベリア。
黙々と作業する彼の姿に「本当に何も変わらないのね、この家は……」と呟いて、そのまま邸に背を向けた。
彼が、どんな酷い当主に仕えているのか分からない彼女。
だけど、あれ程のお金を正しく管理できないような人物。
前の当主よりも酷い人物に雇われている事が悲しかった。
でも、今の自分には何もできないのが辛かった彼女は、彼を見ていられず立ち去った。