全てを失っても幸せと思える、そんな恋をした。 ~全部をかえた絶世の妻は、侯爵から甘やかされる~
侯爵夫人は資金提供に付いてきた、不要なおまけ
ケビン・ヘイワード侯爵の両親は、父方の親族の元を訪問中に、火事に遭遇して亡くなっていた。
先代侯爵の不慮の死によって、ケビンはおろか周囲の人間達も混乱しながら、ケビンへ侯爵位の継承が行われた。
ヘイワード侯爵は、侯爵領の管理と王都にて事業を経営していた。だから、ケビンは、分からないながらも管理を続けるしかなかった。
事故当時、まだ若かったケビンは、侯爵としての領地管理や事業経営について、先代から十分に学びを得る前の出来事だった。正直なところ、領地の事も事業の事もケビンは何も分かっていなかった。
でも、両親を亡くした失意に負けたくなかったケビン・ヘイワード侯爵は、無駄な虚勢を張っていた。
事業経営の知識が乏しいにも関わらず、他人を頼ることなく、知識や経営の手管について教えを請わないまま、間違った独学で突き進んでしまった。
結果、先代侯爵が遺していた資金は3年で底をついた。
蓄えていた資金を失ったばかりの頃は、侯爵という高位貴族の立場を使い、周囲へ少し声をかけるだけで簡単に資金調達が出来た。
そのことも、ヘイワード侯爵が落ちぶれるのに拍車をかけたのかもしれない。
ヘイワード侯爵家は、それから数か月のうちに、返済不能な額の借金を抱えていた。
途方に暮れたヘイワード侯爵は、なりふりなど、構っていられなかった。
それまでは嫌悪を抱いていた、下位貴族にも手当たり次第に資金調達をお願いして回った。
侯爵は気づいていなかったけれど、ヘイワード侯爵家の悪評は、貴族中に広がっていたから、協力してくれる者は簡単には現れなかった。何人にも断られた結果、アベリアの父だけが救いの手を伸ばしてくれた訳だ。
通常、ヘイワード侯爵のように落ちぶれかけた貴族のことは、他の貴族達からすると、災難に巻き込まれることを懸念して見向きもしない。
アベリアの父は娘との結婚を条件に、借金の全額返済と1年程度は余裕で暮らせるお金を、結婚支度金という名目で侯爵に渡した。
それ故、ヘイワード侯爵はアベリアの事を「お金で侯爵夫人の座を買った」と、ことあることに揶揄している。
アベリアは、ヘイワード侯爵家の事について、父親からも詳しくは教えて貰っていない。そのうえ、侯爵家からも相手にされず、限られた情報しか持ち合わせていなかった。
アベリアが嫁いできた時に、男爵家から一緒に侯爵邸で従事する事になったマネッチア。
彼女がもたらす情報でしか、ヘイワード侯爵家を知る事が出来なかった。
おかげで、アベリアは気分を害するような噂話だけが詳しくなっていた。
邸に妻と愛人が暮らしているのだから、アベリアとエリカの話は、メイド達の井戸端会議の格好の話の種だった。
マネッチアが、メイド達から聞いてきた事に、ヘイワード侯爵とエリカの出会いの話もあった。
おそらく、エリカ本人が得意げに従者の誰かに話したことが、邸中に広がっているのだろう。
借金返済の目途もなく、他の貴族からは冷たくあしらわれ、孤独で寂しい日々を過ごしていたヘイワード侯爵。
彼にとっては、町の酒場で出会ったエリカがだけが癒しの存在だった。
貴族達はからは、「ヘイワード侯爵」の名前を出せば怪訝な顔をされ、平民であれば「貴族」と聞けば壁を作られる。誰も、自分の話を真剣に聞いてくれる者はいなかった。
その中で、ヘイワード侯爵に壁を作ることなく、自然体で接してくれる、唯一の存在がエリカだった。エリカの笑顔に元気づけられ、互いに笑顔で話すことができた。
ヘイワード侯爵は、エリカのことを、アベリアとの結婚前から邸に住まわせ、まるで新婚夫婦のように振舞っていた。
平民のエリカは、従者達と感覚も似ていたし、明るい性格のおかげで、侯爵家に仕える従者達とも、あっと言う間に良好な関係が築かれていた。
そこに、多額の資金提供と一緒に、余計なおまけであるアベリアが付いて来てしまった。
侯爵とエリカにとってはもちろん、ヘイワード家に仕える従者達にとっても、アベリアは、2人の仲を引き裂く悪者のようであり、侯爵家の邪魔者として扱われていた。
1年前の結婚初日。
まさか、嫁いだその家で、愛人がニコニコと笑って正妻を出迎えるとは、想像もできないまま、アベリアは侯爵家の門をくぐってしまった。
先代侯爵の不慮の死によって、ケビンはおろか周囲の人間達も混乱しながら、ケビンへ侯爵位の継承が行われた。
ヘイワード侯爵は、侯爵領の管理と王都にて事業を経営していた。だから、ケビンは、分からないながらも管理を続けるしかなかった。
事故当時、まだ若かったケビンは、侯爵としての領地管理や事業経営について、先代から十分に学びを得る前の出来事だった。正直なところ、領地の事も事業の事もケビンは何も分かっていなかった。
でも、両親を亡くした失意に負けたくなかったケビン・ヘイワード侯爵は、無駄な虚勢を張っていた。
事業経営の知識が乏しいにも関わらず、他人を頼ることなく、知識や経営の手管について教えを請わないまま、間違った独学で突き進んでしまった。
結果、先代侯爵が遺していた資金は3年で底をついた。
蓄えていた資金を失ったばかりの頃は、侯爵という高位貴族の立場を使い、周囲へ少し声をかけるだけで簡単に資金調達が出来た。
そのことも、ヘイワード侯爵が落ちぶれるのに拍車をかけたのかもしれない。
ヘイワード侯爵家は、それから数か月のうちに、返済不能な額の借金を抱えていた。
途方に暮れたヘイワード侯爵は、なりふりなど、構っていられなかった。
それまでは嫌悪を抱いていた、下位貴族にも手当たり次第に資金調達をお願いして回った。
侯爵は気づいていなかったけれど、ヘイワード侯爵家の悪評は、貴族中に広がっていたから、協力してくれる者は簡単には現れなかった。何人にも断られた結果、アベリアの父だけが救いの手を伸ばしてくれた訳だ。
通常、ヘイワード侯爵のように落ちぶれかけた貴族のことは、他の貴族達からすると、災難に巻き込まれることを懸念して見向きもしない。
アベリアの父は娘との結婚を条件に、借金の全額返済と1年程度は余裕で暮らせるお金を、結婚支度金という名目で侯爵に渡した。
それ故、ヘイワード侯爵はアベリアの事を「お金で侯爵夫人の座を買った」と、ことあることに揶揄している。
アベリアは、ヘイワード侯爵家の事について、父親からも詳しくは教えて貰っていない。そのうえ、侯爵家からも相手にされず、限られた情報しか持ち合わせていなかった。
アベリアが嫁いできた時に、男爵家から一緒に侯爵邸で従事する事になったマネッチア。
彼女がもたらす情報でしか、ヘイワード侯爵家を知る事が出来なかった。
おかげで、アベリアは気分を害するような噂話だけが詳しくなっていた。
邸に妻と愛人が暮らしているのだから、アベリアとエリカの話は、メイド達の井戸端会議の格好の話の種だった。
マネッチアが、メイド達から聞いてきた事に、ヘイワード侯爵とエリカの出会いの話もあった。
おそらく、エリカ本人が得意げに従者の誰かに話したことが、邸中に広がっているのだろう。
借金返済の目途もなく、他の貴族からは冷たくあしらわれ、孤独で寂しい日々を過ごしていたヘイワード侯爵。
彼にとっては、町の酒場で出会ったエリカがだけが癒しの存在だった。
貴族達はからは、「ヘイワード侯爵」の名前を出せば怪訝な顔をされ、平民であれば「貴族」と聞けば壁を作られる。誰も、自分の話を真剣に聞いてくれる者はいなかった。
その中で、ヘイワード侯爵に壁を作ることなく、自然体で接してくれる、唯一の存在がエリカだった。エリカの笑顔に元気づけられ、互いに笑顔で話すことができた。
ヘイワード侯爵は、エリカのことを、アベリアとの結婚前から邸に住まわせ、まるで新婚夫婦のように振舞っていた。
平民のエリカは、従者達と感覚も似ていたし、明るい性格のおかげで、侯爵家に仕える従者達とも、あっと言う間に良好な関係が築かれていた。
そこに、多額の資金提供と一緒に、余計なおまけであるアベリアが付いて来てしまった。
侯爵とエリカにとってはもちろん、ヘイワード家に仕える従者達にとっても、アベリアは、2人の仲を引き裂く悪者のようであり、侯爵家の邪魔者として扱われていた。
1年前の結婚初日。
まさか、嫁いだその家で、愛人がニコニコと笑って正妻を出迎えるとは、想像もできないまま、アベリアは侯爵家の門をくぐってしまった。