全てを失っても幸せと思える、そんな恋をした。 ~全部をかえた絶世の妻は、侯爵から甘やかされる~
愛人に出迎えられた結婚初日、夫から妻へ告げた「お前のことは愛せない」
アベリアが、ケビン・ヘイワードの妻として、侯爵家に迎えられる日のこと。
アベリアは、男爵家の馬車の中で、初めて会う侯爵の事を想像して、落ち着かなかった。
自分の第一印象を少しでも良くするためには、どんな言葉を伝えるか、想いを巡らせていた。
父は、これから夫となるケビンのことは詳しく教えてくれず、姿絵さえ見せてくれなかった。
ましてや、今日まで会う機会もなかったから、妻となる日まで、夫の容姿も人柄も何も分からなかった。
自分の父にとっては、侯爵との結婚は揺ぐことの無い決定事項だった。だから、結婚相手の何を知っても、自分には選択肢はないから、仕方がないと納得させていたアベリア。
いざ、侯爵家の扉の前に来ると、足が震えてきた。
「お嬢様、そんなに緊張しなくても大丈夫です。こんなに美しいお嬢様を見て、喜ばない殿方はいませんよ」
「マネッチア。あなたが一緒に来てくれて心強いわ。独りだったら、怖気づいて呼び鈴も鳴らすことも出来ず、ここに突っ立たままだったわ」
そう言って、アベリアは一度大きく息を吸って、ゆっくりと息を吐き出し、心を落ち着かせてから、呼び鈴を鳴らした。
ヘイワード侯爵家の扉が開かれると、アベリアの人生では、縁の無かった類の言葉が飛んできた。
あまりに素っ頓狂な声に、アベリアには何が起きているのか、始めは分からなかった。
「うわぁ~素敵! これが貴族の方が着るドレスなのぉ~。きゃ~首のキラキラの石も、かぁわいい~。エリカも欲しいんだけど、どこで買えるの? 教えてアベリアさん」
――――(ァッ、アベリアさん)!
アベリアは、挨拶も無く、名乗りもしない女性から、侯爵家当主の妻になった自分へ、いの一番にドレスの事を聞いて来る存在に面食らった。
その女性は、身なりのいい服を纏っている男性に腕を絡めていた。その男性は、女性の視線をくぎ付けにしそうなほど、整った容姿をしていた。――……この人が、ヘイワード侯爵だと認識したアベリア。
そして、人の事を見抜くのに、そこまで疎くもなかったアベリアは、夫となる侯爵とその女性の様子で、2人が親密な関係なのだと悟った。
愛人から軽々しく「アベリアさん」と呼ばれて、返す言葉も出てこないアベリアだけど、それに返答する事は出来なかった。まだ、侯爵から挨拶を受けていないから、自分から口を開くことはできず、夫の自己紹介を期待していた。
侯爵の言葉を待ったアベリア。
だけど、期待していたものとは全く違い、アベリアは、夫から自分を突き落とす為の一言を浴びせられた。
「見てのとおり、私には最愛のエリカがいる。だから、お前の事は愛せないし、お前との関係は形式だけの夫婦だ。今後の生活において、私に一切の勧奨を許すことはない。もし、正妻の権利だとか偉ぶったことを言い、エリカを虐めるようなことがあれば、お前をこの邸から追い出すからな」
――(何なのこの2人)!
アベリアは一呼吸おいて言葉を飲み込んだ。
「左様ですか、承知いたしました。私からお2人の関係について、ご意見することはありませんので、ご安心ください」
言葉を飲み込まなければ、侯爵に出会って直ぐに伝えたい言葉は「馬鹿2人で路頭に迷え」だった。
だけど、こんな事を言い残して彼女の実家へ帰っても、アベリアの父であれば男爵家の扉を開いてくれないことは目に見えていた。
彼女は、この侯爵家で「愛の無い暮らし」を強いられる以外、もう居場所がなかった。
想像もしていなかった結婚生活を強いられる事になったアベリアの密かな目標は、金銭的に回収できると見込んだ父親の狙いを見つけることだった。
そして、それを自分で成し遂げたかった。それが、冷遇された環境で生きる唯一の希望だった。そんなことでしか、アベリアの自己肯定感を保つことが出来なかった。
でも、夫の目を盗んで、侯爵家の事業の収支を見ても、それらしきものは全く見当たらなかった。
確かに、夫の事業経営は酷い荒ばかりで、これでよく、事業が成り立っているものだと、驚かされていた。
その出鱈目な管理を正せば、それなりの利益は得られるものの、父が負担した金額を思えばそれだけではない気がしていた。
侯爵家の余りに酷い事業経営のことを見かねたアベリアが、侯爵へ経営について進言しても、妻の事を忌み嫌っていた侯爵は、彼女の助言を受け入れる事はなかった。
元々、人に指示されるのを嫌がる侯爵は、アベリアに何かを言われる程、意固地になり、彼女へ冷たく当たっていった。
邸に仕える従者たちでさえ、主の機嫌を損ねないよう、正妻のアベリアに優しくは無かった。
アベリアは、夫と愛人の関係には何も言わず静観を貫いていた。
それに、従者達から広がる妻の話が、夫の逆鱗に触れないように過ごしていたから、従者達にさえ、自らの要求や願いを伝える事はなかった。
元々、自分の事は自分で出来るアベリアにとっては、マネッチアがいれば、困ることはなかった。
だから、自分は、侯爵夫人として、この邸で求められている事だけを大人しく従って、邸内に不要な争いが起きないようにしていた。
それなのに……、アベリアへ毒を盛るところまで、この邸の問題は進行していた。
アベリアは、男爵家の馬車の中で、初めて会う侯爵の事を想像して、落ち着かなかった。
自分の第一印象を少しでも良くするためには、どんな言葉を伝えるか、想いを巡らせていた。
父は、これから夫となるケビンのことは詳しく教えてくれず、姿絵さえ見せてくれなかった。
ましてや、今日まで会う機会もなかったから、妻となる日まで、夫の容姿も人柄も何も分からなかった。
自分の父にとっては、侯爵との結婚は揺ぐことの無い決定事項だった。だから、結婚相手の何を知っても、自分には選択肢はないから、仕方がないと納得させていたアベリア。
いざ、侯爵家の扉の前に来ると、足が震えてきた。
「お嬢様、そんなに緊張しなくても大丈夫です。こんなに美しいお嬢様を見て、喜ばない殿方はいませんよ」
「マネッチア。あなたが一緒に来てくれて心強いわ。独りだったら、怖気づいて呼び鈴も鳴らすことも出来ず、ここに突っ立たままだったわ」
そう言って、アベリアは一度大きく息を吸って、ゆっくりと息を吐き出し、心を落ち着かせてから、呼び鈴を鳴らした。
ヘイワード侯爵家の扉が開かれると、アベリアの人生では、縁の無かった類の言葉が飛んできた。
あまりに素っ頓狂な声に、アベリアには何が起きているのか、始めは分からなかった。
「うわぁ~素敵! これが貴族の方が着るドレスなのぉ~。きゃ~首のキラキラの石も、かぁわいい~。エリカも欲しいんだけど、どこで買えるの? 教えてアベリアさん」
――――(ァッ、アベリアさん)!
アベリアは、挨拶も無く、名乗りもしない女性から、侯爵家当主の妻になった自分へ、いの一番にドレスの事を聞いて来る存在に面食らった。
その女性は、身なりのいい服を纏っている男性に腕を絡めていた。その男性は、女性の視線をくぎ付けにしそうなほど、整った容姿をしていた。――……この人が、ヘイワード侯爵だと認識したアベリア。
そして、人の事を見抜くのに、そこまで疎くもなかったアベリアは、夫となる侯爵とその女性の様子で、2人が親密な関係なのだと悟った。
愛人から軽々しく「アベリアさん」と呼ばれて、返す言葉も出てこないアベリアだけど、それに返答する事は出来なかった。まだ、侯爵から挨拶を受けていないから、自分から口を開くことはできず、夫の自己紹介を期待していた。
侯爵の言葉を待ったアベリア。
だけど、期待していたものとは全く違い、アベリアは、夫から自分を突き落とす為の一言を浴びせられた。
「見てのとおり、私には最愛のエリカがいる。だから、お前の事は愛せないし、お前との関係は形式だけの夫婦だ。今後の生活において、私に一切の勧奨を許すことはない。もし、正妻の権利だとか偉ぶったことを言い、エリカを虐めるようなことがあれば、お前をこの邸から追い出すからな」
――(何なのこの2人)!
アベリアは一呼吸おいて言葉を飲み込んだ。
「左様ですか、承知いたしました。私からお2人の関係について、ご意見することはありませんので、ご安心ください」
言葉を飲み込まなければ、侯爵に出会って直ぐに伝えたい言葉は「馬鹿2人で路頭に迷え」だった。
だけど、こんな事を言い残して彼女の実家へ帰っても、アベリアの父であれば男爵家の扉を開いてくれないことは目に見えていた。
彼女は、この侯爵家で「愛の無い暮らし」を強いられる以外、もう居場所がなかった。
想像もしていなかった結婚生活を強いられる事になったアベリアの密かな目標は、金銭的に回収できると見込んだ父親の狙いを見つけることだった。
そして、それを自分で成し遂げたかった。それが、冷遇された環境で生きる唯一の希望だった。そんなことでしか、アベリアの自己肯定感を保つことが出来なかった。
でも、夫の目を盗んで、侯爵家の事業の収支を見ても、それらしきものは全く見当たらなかった。
確かに、夫の事業経営は酷い荒ばかりで、これでよく、事業が成り立っているものだと、驚かされていた。
その出鱈目な管理を正せば、それなりの利益は得られるものの、父が負担した金額を思えばそれだけではない気がしていた。
侯爵家の余りに酷い事業経営のことを見かねたアベリアが、侯爵へ経営について進言しても、妻の事を忌み嫌っていた侯爵は、彼女の助言を受け入れる事はなかった。
元々、人に指示されるのを嫌がる侯爵は、アベリアに何かを言われる程、意固地になり、彼女へ冷たく当たっていった。
邸に仕える従者たちでさえ、主の機嫌を損ねないよう、正妻のアベリアに優しくは無かった。
アベリアは、夫と愛人の関係には何も言わず静観を貫いていた。
それに、従者達から広がる妻の話が、夫の逆鱗に触れないように過ごしていたから、従者達にさえ、自らの要求や願いを伝える事はなかった。
元々、自分の事は自分で出来るアベリアにとっては、マネッチアがいれば、困ることはなかった。
だから、自分は、侯爵夫人として、この邸で求められている事だけを大人しく従って、邸内に不要な争いが起きないようにしていた。
それなのに……、アベリアへ毒を盛るところまで、この邸の問題は進行していた。