全てを失っても幸せと思える、そんな恋をした。 ~全部をかえた絶世の妻は、侯爵から甘やかされる~
安住の場を手に入れた彼女と、何も知らない彼
執事のデルフィ―は、頬を赤くしている侯爵夫人の事を、十分な持て成しを受けられないことへ、怒り始めていると思っていた。
だから、面倒な事にならないよう、彼女がこれ以上の癇癪を起す前に、早々に王都へ帰すべきだと考えていた。
正直なところ、先ぶれもなく侯爵夫人が保養のためにやって来て、迷惑していたのだ。
その感情は、困惑ではなく、間違いなく苛立ちだった。
たった1人で領地のことを管理しているデルフィーは、唯でさえ忙しかった。それなのに、たった1日や2日でも、侯爵夫人のために時間を使うのが腹立たしかったのだ。
それでも、デルフィーは、そんな事を相手に悟らせるほど、無能ではなかった。ましてや、その相手は侯爵家の女主人なのだから、殊更丁寧に対応していた。
「奥様、わざわざ来ていただいたのですから、お怒りはごもっともです。まあ、書類管理が私の仕事ですが、空腹をしのぐ位の食事の用意はできますゆえ、今日はゆっくりお休みになり、明日には王都の邸へお戻りください」
アベリアは、使用人相手に見惚れてたなんて、とても恥ずかしくて、口が裂けても言えなかったし、自分でも分かるほど、頬が熱かったから照れくさかった。
自分の頬を染めさせた相手に、自分が紅潮していることに気づかれてしまったのだから。
けれど、考えていたことはデルフィーが口にした事とは全く違い、少しの問題も無かった。侯爵のずさん過ぎる管理には驚きつつも、むしろ、使用人が居ないことで、この大きな邸を、自分の自由に出来るなんて、願ったり叶ったりだと思っていたアベリア。
ここでは、夫の監視や、使用人たちの告げ口も、気にしなくていいし、何よりも、愛人が仕掛ける毒に怯える必要もなかった。やっと、アベリアは安住の場所に身を置くことができた喜びを感じていた。
「デルフィー、私は自分の気が済むまでここで暮らすから、気にしなくて大丈夫です。それと、一番大事な事ですけど、私の事は奥様と呼ばないで」
「はぁ~、ですが奥様と呼ばず、お嬢様でもない主をどのようにお呼びしてよいものか、分かりかねますが」
「私は、アベリアだから名前で呼んでくれればいいだけ。後でデルフィーの執務室へ行くから、あなたが知っている、この領地の事全てを教えて頂戴」
――何となく……、「デルフィーなら信用できる」と、アベリアの感覚が彼を素直に受け入れていた。
そして、2人のやり取りが終わる頃には、アベリアが、王都から馬車いっぱいに積み込んできた荷物が扉の前に置かれていた。
それを、アベリアとデルフィーは全く違う思いを抱きながら運び込んでいた。
アベリアの父は、子どもの教育にだけはお金を厭わなかった。
審美眼を磨く為にと、幼少期からアベリアに高価な家具や調度品、ドレスや宝石を惜しみなく買い与えていた。
彼女は長く使っていて愛着の沸いたその品々を、この邸に全て持ち込んでいた。
それらは、子どもに容赦のない厳しい父親が、アベリアへ、目に見えて、触れられる形で与えてくれた、愛情だと思い、大切にしていたから。
これから、ずっとここで暮らすつもりのアベリアにとっては、当たり前のことだった。
だけど、一時の保養に来たと思っているデルフィーにとっては、ただの旅行気分の奥様が、部屋いっぱいの荷物を持ち込んで来る我がままさに呆れていた。
領地の事を顧みない侯爵。その妻も、やはり、傲慢な女性なのだと、この時は思っていた。
でも、たった数日で、彼のこの考えは翻されることになる。
そして、この日に感じた苛立ちで、この後、適当に返答をしてしまったことを、後で後悔することになるのは、しばらく先の事。
だから、面倒な事にならないよう、彼女がこれ以上の癇癪を起す前に、早々に王都へ帰すべきだと考えていた。
正直なところ、先ぶれもなく侯爵夫人が保養のためにやって来て、迷惑していたのだ。
その感情は、困惑ではなく、間違いなく苛立ちだった。
たった1人で領地のことを管理しているデルフィーは、唯でさえ忙しかった。それなのに、たった1日や2日でも、侯爵夫人のために時間を使うのが腹立たしかったのだ。
それでも、デルフィーは、そんな事を相手に悟らせるほど、無能ではなかった。ましてや、その相手は侯爵家の女主人なのだから、殊更丁寧に対応していた。
「奥様、わざわざ来ていただいたのですから、お怒りはごもっともです。まあ、書類管理が私の仕事ですが、空腹をしのぐ位の食事の用意はできますゆえ、今日はゆっくりお休みになり、明日には王都の邸へお戻りください」
アベリアは、使用人相手に見惚れてたなんて、とても恥ずかしくて、口が裂けても言えなかったし、自分でも分かるほど、頬が熱かったから照れくさかった。
自分の頬を染めさせた相手に、自分が紅潮していることに気づかれてしまったのだから。
けれど、考えていたことはデルフィーが口にした事とは全く違い、少しの問題も無かった。侯爵のずさん過ぎる管理には驚きつつも、むしろ、使用人が居ないことで、この大きな邸を、自分の自由に出来るなんて、願ったり叶ったりだと思っていたアベリア。
ここでは、夫の監視や、使用人たちの告げ口も、気にしなくていいし、何よりも、愛人が仕掛ける毒に怯える必要もなかった。やっと、アベリアは安住の場所に身を置くことができた喜びを感じていた。
「デルフィー、私は自分の気が済むまでここで暮らすから、気にしなくて大丈夫です。それと、一番大事な事ですけど、私の事は奥様と呼ばないで」
「はぁ~、ですが奥様と呼ばず、お嬢様でもない主をどのようにお呼びしてよいものか、分かりかねますが」
「私は、アベリアだから名前で呼んでくれればいいだけ。後でデルフィーの執務室へ行くから、あなたが知っている、この領地の事全てを教えて頂戴」
――何となく……、「デルフィーなら信用できる」と、アベリアの感覚が彼を素直に受け入れていた。
そして、2人のやり取りが終わる頃には、アベリアが、王都から馬車いっぱいに積み込んできた荷物が扉の前に置かれていた。
それを、アベリアとデルフィーは全く違う思いを抱きながら運び込んでいた。
アベリアの父は、子どもの教育にだけはお金を厭わなかった。
審美眼を磨く為にと、幼少期からアベリアに高価な家具や調度品、ドレスや宝石を惜しみなく買い与えていた。
彼女は長く使っていて愛着の沸いたその品々を、この邸に全て持ち込んでいた。
それらは、子どもに容赦のない厳しい父親が、アベリアへ、目に見えて、触れられる形で与えてくれた、愛情だと思い、大切にしていたから。
これから、ずっとここで暮らすつもりのアベリアにとっては、当たり前のことだった。
だけど、一時の保養に来たと思っているデルフィーにとっては、ただの旅行気分の奥様が、部屋いっぱいの荷物を持ち込んで来る我がままさに呆れていた。
領地の事を顧みない侯爵。その妻も、やはり、傲慢な女性なのだと、この時は思っていた。
でも、たった数日で、彼のこの考えは翻されることになる。
そして、この日に感じた苛立ちで、この後、適当に返答をしてしまったことを、後で後悔することになるのは、しばらく先の事。