私の彼氏はクラスで一番、
力なく首を振ると、そのまま掴まれた腕を引っ張られた。
その勢いに導かれるように立ち上がれば、目の前に優しい笑顔が広がる。
「嫌じゃないなら、決まり」
得意げに言った彼がパッと手を離すと、そのまま緩く両手を広げ、私を試すように小首を傾げた。
「これから俺は、恋人としてよろしくねのハグを山本にします」
「えっ!?」
「やっぱり無理! 嫌だ! ってなったら逃げて。逃げなかったら……もう、気持ち悪いって言われるまで、離さないから」
そんなのずるいよ、とか。
気持ち悪いなんて、言うわけないじゃん、とか。
色々と抗議の言葉はあったのに、そのどれもが言えなくて。
綺麗な顔がどんどん近づいてくるのを、真っ赤な顔で待つことしか出来なくて。
「……はい、時間切れ」
耳元で囁かれた嬉しそうな甘い声と、自分よりもほんの少し高い体温。それに、どこか安心するような爽やかな香水の匂い。
その全てに包まれて、私と彼の、ちょっと不思議な関係性が、始まりを告げたのだ。