私の彼氏はクラスで一番、


なんだか、手のひらの上で踊らされてる気がする。

むう、と彼をちょっとだけ睨むも、阿久津くんは何がそんなに楽しいのか、笑みを滲ませたまま私の方へと手を伸ばし、つん、と膨れた頬をつついた。


「だから言ったじゃん。近くに居たら、ちょっかいかけちゃうって。……山本が、可愛いから」


ぼふっと顔が赤くなる。


その、急に「可愛い」とか、サラッと言ってくるのをやめてほしい。心臓に悪いから。


普段そんなに話すタイプじゃないのに、いきなりこっちの心臓を止めようとしてくるんだもんなあ。普通の男子高校生はそんな平然と、可愛いとか言えないと思う。私の勝手な想像だけど。


「もう、勉強しよう! 勉強!」

「ん。よろしくお願いします」


彼の悪戯な指先から逃れるように、顔の前をノートでガードする。


阿久津くんはクスリと笑いながらも素直に退くと、自分もノートやペンケースを用意して、ぺこりと頭を下げたのだった。





それから暫くは、それぞれに教科書を開き、黙々と勉強を進めた。


分からないところがあれば、声を掛けてもらって。だけど、阿久津くんは理解力があるから少し教えるだけで充分で、私も自分の勉強に集中することが出来た。

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