私の彼氏はクラスで一番、


多分、こういう時の阿久津くんには何を言っても敵わない。


だから私はもう観念して、せめて手汗をかかないように神経を集中させながら、阿久津くんの後ろをついていくことにした。




「わあ……!」


海なんて、何年ぶりだろう。

潮の香りや波の音、花畑のように咲き乱れるパラソルやテントの色に思わず感嘆の声を上げてしまう。


「やっぱ人すごいな」

「ね! 夏休みだからかなあ」


あちこちの海の家から、ソースのいい匂いもする……。


あとで海の家も覗きたいなあ、とソワソワしていると、そっと繋いでいた指先が解かれた。

見上げると、優しい微笑みが落ちてきて、ぽん、と大きな手のひらで頭を撫でられる。


「準備が終わったらここに集合な」

「あ、うん!」

「はい」


ずっと持っていてくれていたビニールバッグを渡され、そうだった! と慌てながら受け取る。

そして、また後で、と手を振った阿久津くんをちょっとだけ見送ってから、私も更衣室に向かった。


「……私も、服の中に着てくればよかったなあ」


更衣室のロッカー前で、ぽそりと呟く。


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