私の彼氏はクラスで一番、


「うん、さっき買って膨らましてきた」

「えっ! じゃあ私も半分……」

「いらないでーす」


払うよ! とポーチを取り出す前に、阿久津くんが先に歩き出してしまう。


よく見れば、阿久津くんは絶対使わないようなかわいいデザインの浮き輪だ。


私のために買ってくれたんだ、泳げないって言ったから。

そういうさり気ない気遣いが嬉しくて、カッコよくて、キュンキュンと胸を締め付けられながら、早歩きで隣に並んだ。


「阿久津くん、日焼け止めは塗った?」


そういえば、と思い訊ねると、きょとんとした瞳がこちらを見下ろす。


「塗ってないけど……」

「え! 絶対塗った方がいいよ!」


せっかく綺麗な肌なのに、焼けて悲惨なことになったら大変だ。


「塗ったことない」

「そうなの? その割には焼けてないね」

「普段、あんま外でないから」

「そっかあ。でもそれならやっぱり塗った方がいいよ、私の貸すから!」


きっと日焼けもしたことないんだろうな。

それなら尚更、必ず痛い目を見る。海は久しぶりだけど、海の日焼けを甘く見ない方が良いことだけは知ってる。


力説する私に阿久津くんはちょっと目を丸くしてから、ふむ、と考え込むように顎に手を当てた。


「なら、山本が塗って」

「えっ!?」

「背中とか塗れないし」

「ス、スプレータイプもあるよ!」

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