私の彼氏はクラスで一番、
ポーチからパッと取り出してみせると、阿久津くんは何も言わずじっと私を見つめる。
そのまま、澄んだ瞳でずっと見つめられ続けて……折れたのは、私だった。
「ぬ、塗ります……」
「ありがと」
にこ、と端麗な笑みを浮かべて、阿久津くんはまた歩き出す。
私は頭を抱えながら、今度は一歩後ろをとぼとぼと歩いた。
「じゃー、はい。よろしく」
まずは日陰に身を寄せたところで、阿久津くんが胡座をかいて座り、両手を広げた。
私はぎゅっと手の中の日焼け止めを握りしめながら、狼狽える。
「え、えっと……」
どこから塗れば……。
前、はハードルが高いから、やっぱり背中からだな! うん。
「背中、触るね?」
「ん」
後ろに回り、手のひらにクリームを出す。
そして、ええいままよ! と覚悟を決めて逞しい背中に触れた。
広くて、温かい背中。指の腹をそっと撫でるように滑らせると、阿久津くんの体がぴくんと揺れる。
「あっ、冷たいよね? 大丈夫?」
「ん……いや、」
もご、と珍しく口ごもった阿久津くんは、しばらく沈黙したあとで、こくんと頷いた。
私はそれを見て、またゆっくり丁寧に塗り広げていく。
緊張するけど、それよりも塗り残しがないようにすることに必死で、思ったよりは動揺せずに塗れたんじゃないだろうか。
背中の後は、肩から指先を辿るように腕を。腕を塗ってる時は阿久津くんの視線を感じたけれど、さすがに恥ずかしくて目は合わせられなかった。